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 俺は向かい側に座る寺田をまじまじと見た。細めの目に、高くてデカい鼻。しっかりした唇。少なくても、俺なんかよりはイケメンだ。前髪はおでこがすっかり見えるぐらいに短くして少し立て、サイドと後ろは刈り上げ、頭頂は髪を長めにして刈り上げた部分にかぶせるようになってる。ツーブロックっていうのか? そしてたぶん俺と似たような、何枚でいくらっていう安物のワイシャツが、がっしりした肩にはちょっと窮屈そうで。  こうして見るとやっぱり、俺らと大沼じゃできというか育ちが違う感じがする。もともと生まれ持った品とでも言うのかな。おっとりしてて、言葉使いも丁寧で。まあ俺も船橋で生まれ育った生粋の千葉県民だから、日本橋って土地への先入観があるかもだけど。 「特に朝は歩いた方がいいから、隅田川沿いを歩いて通勤してるよ」 「いいっスね~。スカイツリーなんかも見えて、最高じゃないスか」  興味津々、って感じに調子よく言う寺田。俺はなんだか枝豆が止まらなくなっちまって、二人の会話を聞きながら、追加で頼んだ枝豆を独り占めする勢いで食べ、ビールを飲んだ。 「俺ちょっと、トイレ行ってくるね」  おう、と応えて、大沼が席を立つのを見送る。引き戸を開けた途端飛び込んでくる、若い女の笑い声。日に焼けた素足が通り過ぎていく。  俺はさすがに枝豆を食い過ぎて、枝豆とビールが混じりあったゲップを噛み殺しながら、大沼の背中が見えなくなるまでぼんやり見てた。さすがに少し酔ったな。 「先輩、なんでずっと黙って、リスみたいに枝豆爆食いしてるんスか」  寺田がぐっと俺の方に身を乗り出して小声で言う。 「うるせえ、リスみてえとか言うな」  やっぱりそんなふうに俺を見てやがったのか。イラッとしながらまた唐揚げを食う。  寺田はジョッキや空いた皿を少しどかし、ますます俺の方に首を伸ばして声を潜める。
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