Knockを奏でる日

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 コンクールで結果を出すことがどんなに大変な事か。少しならわかる。  気持ちを強く持つことも大事だけど、技術があるからこそ気持ちも強く持てるんだ。  だけど黒田は首を横に振る。 「ううん。今、確信した。やっぱり詩の音が大好き。だから、ね!連弾やろう!」 「いや、それはまた別でしょ。私とじゃレベルちがいすぎだって」 「……私ね、留学の話があるの。ドイツに」  ドイツ?留学?  突然の話で頭がついていかない。 「その前にどうしても、詩との想い出が欲しい。私が頑張れるように新しい想い出を、私に頂戴」  待ってよ。想い出ってなに?  留学なんて聞いてない。  でもそっか。関わらないようにしてたんだもん。  知らなくて当然か。  もう会えないの?黒田のピアノが聴けないの?  毎日、当たり前のように聴こえていたのに。  そんなの……  だけど、黒田にとっては大きなチャンスだよね。  だから連弾なんて急に……  私がちからになれるの?それが支えになるっていうの? 「そんな事いわれたら、引き受けるしかないじゃない」 「本当?」 「耳がおかしいんじゃない?私なんかの音がいいなんて!でも……それでいいなら、やるわよ」  もっと早く、素直に向き合っていればよかった。  いっぱい色んな話をして、一緒の時間を過ごせばよかった。  こんなに突然、別れの時がくるなんて思わなかった。  こみあげてくるものを隠すように、私は窓を向いて俯く。 「ありがとう!詩」 「うわっ!」  いきなり背後からタックルのように抱きついてきた。  
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