世にも奇怪で人によっては不快な気分になる三つの物語「運命のふたり」

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 こんにちは、進行役の斉木一義です。今から読者の皆様を世にも奇怪で人によっては不快な気分になる三つの物語の世界へご案内します。言うまでもありませんが、すべてが妄想の中の出来事、現実とは一切の関わりがございませんので、悪しからず。 ・一度は将棋をやめた俺が、アマとして竜王戦に参加。かつてライバルと呼ばれた竜王に、きっと挑戦してみせる!  アマチュア竜王戦で優勝し竜王ランキング戦のトーナメントを勝ち上がった俺は遂に、かつてライバルと呼ばれた竜王に挑戦する機会を得た。一度は将棋との縁を切った人間が最高峰の七番勝負を迎えるのは奇跡だと皆が言った。だが、この程度なら本当の奇跡ではない。無敵の竜王を倒してこそ、奇跡が完成する。そして、そのときは間もなくだ!  そんなことを考えながら対局前にトイレで用を足していたら、竜王が入ってきた。俺の姿を見て、物凄く驚いた。まあ、そうだろう。ここに書くのは何なので書けないが、俺は勝負の前には興奮して、大変な状態になる。普通のスタイルでは駄目なのだ。大抵の男は、悲鳴を上げて逃げ出す。清純な女の子かよ! と嘆かわしくなる。  だが、竜王は違った。目を爛々と輝かせ、俺を凝視している。いつもと違い、こっちの方が落ち着かなくなった。とはいえ、途中では止められない。実に困った。  無言で壁を見つめ続ける俺に、竜王が尋ねてきた。 「それは、もしかして、将棋の神の仕業か?」 「は?」 「だから、その、そこの……それだよ?」 「何を言っているんだ?」 「ええい、まどろっこしい!」  竜王はズボンの前を開けた。見たくないが俺は見てしまった。そして驚愕した。俺と同じような物体が、そこにあった。俺は口から泡を飛ばして言った。 「男で女だと? 俺と同じだ! こんな持ち物を隠している人間が、俺以外にもいたのか!」  俺が漏らした言葉を聞いて竜王は頷いた。 「将棋の神に祈ったんだ。無敵の竜王になりたいと。そうしたら夢枕に将棋の駒の着ぐるみを着た性別不詳の人間が立った。自分は将棋の神だと名乗り、願いをかなえてやると言った。目覚めたら、こうだ。そして、そのときから自分は常勝無敗の将棋指しとなった」  俺も似たようなものだ、と伝えてから、こう言い添えた。 「将棋の駒の着ぐるみを着た将棋の神は、こう言った。お前は、もうすぐ最高の相手と巡り会う。その相手と、差しつ差されつの関係になる、と」  将棋の神を自称する何者かは、竜王にも同じようなことを言ったそうだ。 「将棋の神は予言した。お前たち二人は最高の関係になる。勝負の相手として、そして愛し合う恋人同士として、と」  俺は笑った。 「愛し合うなんて考えられない。だって、そうだろ? 俺たちは、これから戦うんだぞ」  竜王は目を潤ませて言った。 「対局まで、まだ時間がある。一勝負なら、できる」  頬を染めた竜王を見て、俺は苦笑いを浮かべた。これが俺たちの運命なのだと分かったのだ。 「オーケー、分かったよ。でも一勝負だけなのは物足りない。差しつ差されつでいこう。それで構わないだろ? なあ、いいだろ?」  顔を赤らめて竜王は同意し、俺の長い用足しが終わるのを待った。 ・当たると評判の占いで、私の運命の相手は大嫌いなあいつだと言われた。それ以来、変に意識してしまい……?  もう我慢できない!  変に意識しすぎて平常心を失ってしまった私は、大嫌いなあいつに告白しただけならまだしも、自分の秘密を見せてしまった。 「私、こんな体なんだけど、でも、好きなの!」  変態だと思われてしまうけど、それでも知ってもらいたかった。  だって、隠していても、いつか絶対にバレるもの。  それなら今、見せてしまおう。  嫌われてしまうかもしれないけれど、嘘はつきたくない。  でも私、自分の直感と恋の運命を信じてる。  当たると評判の占いでも、言っていた。運命の相手は、この人以外にはありえない。相性抜群で最高のカップルなのだと!  あいつは私の体を見ても、思ったほど驚かなかった。 「最初に見たときから、こうなるって分かっていた気がする。似た者同士だから反発しあっていたけど、同じような人間だって感じてた。うん、今それが確信に変わったよ」  あいつも自分の秘密を見せてくれた。私と同じ体だった。  占いは当たった。最高のふたりだという予言は、間違っていなかった。同じ体の秘密を共有する私たちは、もう絶対に離れられない。ふたりは、ずっと一緒。死がふたりを分かつ、その日まで。 ・村長宅に双子が産まれ、一人は忌み子として捨てられた。数十年後、村長となった青年の元に、同じ顔の男が現れ……。 「驚かないのか、自分の双子だと名乗る男が突然お前の前に現れたというのに!」  村長となった青年は首を横に振った。 「自分と同じ顔というだけなら取り合わなかっただろう。だが、その下半身を見れば一目瞭然だ」  捨てられた双子の片割れが言った。 「そうか、お前も同じだったのか」 「そうだ」  青年村長の肯定を聞き、その双子の青年は呟いた。 「数十年前、忌み子として捨てられた理由は、これだと思っていた。だが、実際は違った。それならば、どうして自分は捨てられたのだろう?」  最初に出るか後に出るか。二人の運命を分けたものは、それだけだった……と青年村長は訊かれもしないのに答えた。  話を聞き終えた元捨て子青年が礼を言った。 「ありがとう。これで長年の恨みと疑問が融けた。それじゃあな」 「ま、待ってくれ」  青年村長が呼び止める。 「ここに残ってくれないか。いや、勿論、こんなことを言えた義理じゃないのは分かっているが、でも残って欲しいんだ」  振り返った元捨て子は無言で青年村長を見つめた。その視線に射すくめられたかのように、青年村長は俯き加減で言った。 「こんな体だろ? 一人じゃ心細かったんだ。仲間が欲しいんだよ。同じ体の兄弟がいてくれるなら、安心できる」  元捨て子は何も言わずに青年村長を見つめ続けた。その視線に耐えられず、青年村長はすっかり俯いて言った。 「きっと僕たちは最高のふたりになれる。そう、最高のふたりに!」  元捨て子青年は首を横に振った。 「傷を舐め合うのは好きじゃない。こういう自分を受け入れてくれる人を探す旅に出るよ」  青年村長は驚いて顔を上げた。 「そんな! 一緒にいよう! 生まれ故郷で、同じ体の兄弟同士、仲良く暮らそうよ!」  哀願する青年村長に背を向けて、元捨て子青年は言った。 「自分は独りで生きてきた。独りで死ぬと決めていた。だけど、生まれ故郷に来て生き別れの兄と会って、気が変わった。愛する人を、愛してくれる人を見つける。本当の幸せを見つけ出す。それが次の目標だ。それが生きる望みだ。兄貴も、自分にとって最高の相手を見つけてくれ。そしていつの日か、ここで会おう。共に最高のふたりとなって、再会しよう……兄さん、その日まで、おさらばだ」  立ち去る弟を青年村長は掛ける言葉もなく見送るだけだった。  進行役の斉木一義です。いかがだったでしょうか? え、ふざけんなって?  こんなの強制非公開だって? まま、そうおっしゃらず。これも多様性です。そして妄想なのです。こういう夢物語をお好みの方も、いらっしゃるのです。  ですが今宵は、ここにいるのは私とあなた、それだけです。他のことは何もかも忘れましょう。お題は最高のふたりですよ。それは私たちのことです。そう思いませんか? そうに決まっています。さあ、気分を出しましょう、素敵な気分を。  嗚呼、本当に素敵な晩ですよね。ご覧下さい、月が綺麗ですよ。  今のご気分はいかがです? 私の気分は、今夜は最高! です。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加