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海へ行こう
夏休み。
小さい頃からいつも遊びに行く、母方の親せきの家。
お母さんのお兄さんの伯父さんとお兄さんのお嫁さんの伯母さんがいる。
ナツミの家は埼玉県。母方の実家は新潟県。
ナツミたち家族は、父の実家がある埼玉県で祖父や祖母と同居していた。
冬は雪が多く、ウィンタースポーツはあまり好きではないナツミは冬には埼玉の実家にいて、友達と初詣に行ったりする方を選んでいた。
そういう訳で、年に一度母が帰省できるのはナツミの夏休みだけなのだ。
そうはいっても、宿題もこなさなければいけないナツミは8月の10日をすぎないと父も休みをとれないことから、いつも8月10日から8月17日までのお盆を挟んだ期間を新潟で過ごすのだった。
母の実家は海の近くだ。
浜辺から歩いて5分ほどの所の高台に家があり、窓を開けると海風が吹き込んでくる。
ナツミが小学校5年生の夏休み。
8月10日に母の実家に着くと、ナツミより一つ年下の従兄弟のケンタが待ち構えていた。
「海に行こうよ!」
ケンタは毎日海で泳いでいるらしく真っ黒に日焼けしている。
ナツミは誘われるままに、母の了承を得て、水着に着替え、ラッシュガードを念のために着てケンタの後を追いかけた。
ナツミはいつも新潟にしか来ないので、日本海しか知らない。日本海は荒れていると良く聞くが、ナツミたちが泳ぐ浜は浜辺も広く、岩場もない。
ただ、少し沖に出ただけで急に深くなる場所がある。
でも、それも慣れたもので、そう言うものだと知っていれば慌てることもない。
ナツミは久し振りの海を楽しんだ。深いところに行けばプールよりも浮きやすい海は泳ぐのも楽で仰向けに浮いていることも楽々だ。
ただ、潮で流されてはいけないので、仰向けに浮く時は必ず、二人のどちらかが、浜から離れすぎないように見張りをするのも、もう決まりきったことだった。
8月13日になると、大抵海は荒れ始めお盆の間は泳げなくなることが多かった。だから大人もわざわざ子供を怖がらせるようなことは話さなかった。
この5年生の夏の日、13日のお盆になっても珍しく海があれていなかった。今年は台風があまり発生せず、その影響を受けていないこともあったのだと思う。
荒れていないのだから、もちろん海に入りたい。
ナツミはケンタに
「ねぇ、海に行こうよ!」
と言ったが、ケンタはなぜかその日は
「今日はやめといたほうがいいよ。」
と、乗り気になってはくれない。
だったら、浜遊びだけでも。と、ナツミは一人で海に出かけた。
泳ぐ時には必ず二人で行くことと言われていたのだが、浜遊びで、海に入らないのだったら、一人で貝殻を拾ったりするのは、慣れた浜なので、大人たちも何も言わなかった。
ただ、その日はお盆だったのだから、大人が誰か気づいていればナツミを海へは行かせなかった事だろう。
海の近くの田舎だったらどこでもそうだと思うが、お盆にはご先祖様のほかにも色々な霊が帰ってきているのだから。
海に引き込まれるといい伝えられているのだ。
ナツミはいつもの浜で、貝殻が流れ着く場所をよく知っていた。
日本海の浜辺は実はでこぼこしている。なだらかに見えても細かな浜の隆起があって、波はへこんだところに貝を集める。
この年の思い出に綺麗な貝を拾おうと、帽子もかぶって、今日は泳ぐつもりではないので、Tシャツにショートパンツで海に来た。
いつも綺麗な貝が集まる場所に向かって、ナツミの一番好きな桜貝を集め始めた。小さな赤ちゃんの爪のような桜貝。ちょうど片手分の5つを拾い集めたときだった。
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