10人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
義母が亡くなった。夫と同じ心筋梗塞。息子の圭祐は随分落ち込んでいるようだった。父親に続き祖母まで亡くして寂しいのだろう。
慌ただしく葬儀を終えようやく落ち着いた頃、私は働きに出ることにした。看護師の資格を持っているので働き口はいくらでもある。相続した幾ばくかの財産はあるが今後お金はいくらあっても困らない。義母の介護で少々ブランクはあるが特に問題はなかった。
「さて、と」
冷蔵庫を開き夕飯の食材を取り出す。今日は圭祐の大好きな唐揚げだ。夫も唐揚げが好物だったな、と思い出す。
「ま、いつも夫と圭祐が全部食べちゃって私の分なんかなかったけど、ね」
夫と息子の食事が作って配膳し義母に食事させ、全部終わってから残り物でささっと夕飯を済ませる、それが日常だった。
「あ、いけない」
息子のくれたビタミン剤を二錠取り出して……捨てる。
「減ってないとね、バレちゃうからね」
この中身がビタミン剤なんかじゃないことはわかってる。まぁたいした毒物でもないけれど。看護師だからある程度の知識はあるのにどうして気付かれると思わないんだろう。
「アイツに似てバカだから、だろうな」
夫からのDVと姑の嫁いびり。気に入らないことがあるとすぐに癇癪を起こす息子。
「あと少し、あとほんのもう少し辛抱よ」
自分にそう言い聞かせ食事の支度にとりかかる。カラッと揚がった鶏肉を皿に盛りつけた。
「最後にトッピング、と」
私は戸棚の中から小さな瓶を取り出す。中に入っているのは無味無臭の液体だ。即効性はないけれどよく効く〝おくすり〟。これはきっと圭祐にも効果があるだろう。夫と義母で実証済みだ、間違いない。
「圭祐、ご飯できたわよ」
私はとびきりの笑顔で息子を呼んだ。
了
最初のコメントを投稿しよう!