1.祖母と孫

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「ばぁちゃん大丈夫か?」  孫の圭祐(けいすけ)が心配そうにベッドに横たわる私の顔を覗き込む。この家で私の味方なのはこの子だけだ。 「うん、きっともうすぐ良くなるよ。来年は圭祐も高校生だろ? 楽しみだねぇ」 「受験勉強大変だよ」  ため息をつく圭祐に私は枕元に置いた財布から一万円札を取り出して渡す。 「ほら、これで参考書でも買いな」  圭祐は嬉しそうに一万円札を受け取り「ありがと、頑張るよ」と言って微笑んだ。その顔に亡き息子の姿が重なり思わず目頭が熱くなる。 「お義母さん?」  嫁の美沙(みさ)が顔を覗かせた。 「ああ、何か用?」  つい尖った声が出てしまう。 「す、すみません。お薬ちゃんと飲んでくれたかな、と思って」 「ああ、飲んだよ」 「ならいいんです。圭祐、晩御飯の支度できたわよ。お義母さん後でこちらにお持ちしますね」  美沙はそそくさと部屋を後にした。あの女の怯えたような顔を見ると無性に苛々する。いつも自分が被害者みたいな顔して、腹の中では何を考えているかわかったもんじゃない。 「じゃあ飯食ってくるわ。アイツがうるさいからさ」  圭祐が両手の人差し指を頭の上立て鬼のポーズをした。私はクスクス笑いながら「いっておいで」と頷く。 「ふん、あんな態度でいられるのも今のうちさ」  ひとりになった部屋で呟いた。息子が亡くなってからもあの女を追い出さなかったのはひとえに孫の圭祐のため。でもこの我慢ももうじき終わる。私は圭祐を自分の息子として養子縁組するよう準備を進めていた。 「ようやく今年で圭祐も十五歳。親の承諾がなくても養子縁組できる」  もちろんあんな嫁は身ひとつで追い出すつもりだ。私はその時のことを想像しほくそ笑む。あと少し、あともう少しの辛抱だ。
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