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「そういうことだ。王である父と、妃である母を失った余は孤独だった。しかし、これからは支えてくれる女性がいる。余は王となり、この国のさらなる発展を約束しよう!」
王子の凛とした言葉に、客たちが歓声を上げる。皆が心からわたしと王子の婚約を喜び、惜しみない拍手を捧げているのだ。
それもそうだろう、この国は王が亡くなってずいぶん経つけれど、次期王であるはずの王子は戴冠式をおこなって王になるのを拒んでいた。悲しみの癒えぬ自分では、とても国をまとめ上げることなどできないとね。――まあ、あくまでもそういう設定が台本に書かれてたんだけどね。
そういった事情でしばらくは王のいない期間が続いたけれど、わたしという悪役令嬢が妻になることで王子も王になる決心がついて、民も安心ってわけ。
そりゃあ広間の客も沸かないわけがない。サッカーで日本代表がシュートを決めた時の我が家のリビングみたいに、大広間にいるみんなが心からの笑顔で喜んでいる。やったね! おめでとう! 今日はパーティーだ! ――と言っても、ここでおめでとうの声を上げる観客たちだって、みんな演技なんだけどね。
そう、悪役令嬢のわたしだけじゃない。ここにいるみんなが台本を元にして気合を入れて演技をしているの。それは、このお芝居をみている誰かのため。そして、自分たちのために。
だからこそ、ここで話は終わらない。終わってはいけない。
さあ来い! ヒロインの伯爵令嬢!
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