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ニ人の会話はいつになく途切れない。彼女は後悔する生き方をするなんてもったいないと常に考えている。自分の持つ世界観は世界が待っているものではなく自分からチャンスを掴むものだから、飛び込んででも行かないと損をするのはすべて自分に返ってくるのだと強調する。 一方で葵陽は今起きている出来事に着実にとらえて一つ一つの事に丁寧に向き合っていきたい性分もあるので、ツジリとは違い慎重派なところがある。 性格も考え方も真逆の二人。 それでも夫婦としていた時間はお互いに刺激を撃ち合うような仲だったのは今でもそれぞれの心に浸透しているのは消えにくいものとなっているのだ。こうして会話が調子よく続くのもお互いに仕事に誇りを持って挑んでいるから、時折目が合うと葵陽は彼女の事を気にしてしまうのだ。 「今日さ、あの高校生の子たちとの写真を撮っている時、自分も当時の事を思い出していたな」 「元カノのこと?」 「いや、なかった。片思いばかりで終わったんだ。うまく自分の主張もできなくてさ、結局相手をおちょくってからかいながら友達として付き合っていた」 「それでも楽しかった?」 「ああ。あの時バスケ部にいたし試合とかに好きな子が応援しに来てくれただけでも嬉しかった」 「純粋だよね。あたしならもっとガンガン告白しまくっていたな」 「いたの、彼氏?」 「うん、長くても五年続いた。就活とか私がポートランドに行く事が決まった時には遠距離過ぎて身が持たないから別々になろうってことになったし」 「ツジリは夢追い人だな」 「そうでもない。ちゃんと現実を見て生きてきている」 彼女の言動を聞いているうちに彼は結婚生活の当時の事を思い出していた。自分としては彼女の事を考えて行動していたつもりだったが、彼女は人よりも数メートルは先に前に出ながら何事にも駆け抜けていかないと気の済まない部分があったのでそれに追いつこうとしても立ち止まってはくれなかった。 「もう少しさ、相手の事考えて速度を落としてほしいな」 「いや、止めたくない。常に走っていないとあっという間に追い抜かれる。たまったものじゃない」 葵陽は箸を置いて立ち上がるとツジリの席の横に腰を下ろして彼女を見つめていた。 「何よ、まだ未練あるの?」 「あああるよ。離婚した時すぐに俺よりに家を出ていっただろう?もう少しだけ話を聞いてほしかったなってさ」 「あの時だって十分話し合いしたじゃん。そっちに……負担をかけるようなことをしたくなかったし」 「俺は重たかったのか?」 「そうじゃない。でも、優柔不断なところは嫌気がさしたこところもあった。それを気遣っていたけどやっぱり限度があるって思ったし」 唐突にツジリの腕を掴んで黙り込む葵陽は当時の自分に戻ったかのように彼女に甘えたくなる気持ちになっていた。 「やり直しって効かないのかな?」 「今更どうしたの?無理に決まっているじゃん……」 彼は彼女の背後からそっと両腕を回して抱きしめると、彼女は離してくれと嫌がるが彼は更に強く抱きしめる。 「やめてよ。引っ叩くよ」 「少しだけでいい。こうしていさせてくれ……」 「全く……」 「お前、香水変えた?」 「最近買ったのがあってそれを使っている。香りきつい?」 「いや……前より優しい香りになった」 「じゃあ前はそんなにきつかった?」 「若干は」 「なんか、変だよね」 「何?」 「前の旦那にこうして抱きしめられていても殴り掛からない自分が変……」 「殴りたいのか?」 「ないってば。……葵陽の匂いが、懐かしいというか」 二人は顔を寄せ合うと葵陽からツジリの唇にキスをした。ツジリは戸惑い気味に顔を引きながらも彼の体温が伝わってくるのを感じ取ると一旦唇を離し、今度は彼女から彼の唇に重ね合わせてお互いの温もりを引き寄せ合っていった。 久しぶりに重ねる葵陽からの恩情にツジリは彼の肩に腕を回して耳元で「こうして欲しい相手がいないから、何かが恥ずかしい」と言い彼の耳たぶを咥えて舐めてきた。 葵陽は芯から欲が出てきそうな予感がしたが、そうしてまでツジリを欲したいとは考えていなかったので、驚いて身体を離し「悪かった」と言って元の席に戻り、残りの食事を済ませた。 「その気にさせないで」 「それに釣られるお前も舐めてくることないだろう。びっくりした……とりあえず食べたら今日はもう帰ろう」 「そんなに動揺しなくてもいいじゃん。子どもじゃあるまいし」 「つべこべ言うな。いいから食ってここ片付けたらさっさと解散しよう」 「そうだ、次の依頼主って連絡取れた?」 「深見さんが交渉中だよ。決まったら俺らに報告するって言っていた」 「確か離散する家族の人たちだって言っていたよね。かなり訳ありって感じかな?」 「知らない。訳ありでも取材するには変わらないからさ」 「てか、またちゃんと手紙読んでないの?全くいい加減なんだから……」 女性の気持ちの切り替えは素早い。それについて葵陽はまだ余韻が残る心情をどう咀嚼しようかと考えながら彼女の言葉に耳を傾けていた。
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