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懐かしき顔
駅へと続く道にはマンションの棟が立ち並ぶ。今歩いている方角から逆へ向かうと学校がある。ここは多くの学生が通学に使う場所であり、高校で社会科の教師をしている桧山環も駅まで、この道を利用していた。
定時にあがることなど滅多になく、学生達と同じ時間に歩いていると、彼らと同じころの自分を思いだして懐かしい気持ちになる。
ランドセルを背負う子供たちの姿もあり、走っているのに元気いっぱいで、階段の上り下りでも疲れてしまう自分にもそういう時代があったなとぼんやりと眺めていたら頭に何かが当たった。
一体何がと当たりを見渡してから足元へと視界を向ければ落ちているのは紙飛行機だった。
拾い上げると赤ペンが裏面にしみていてレ点がみえた。それを広げてみると名前と点数が書かれている。
「算数のテストか。あさきやまと、20てん」
不正解だらけな答案用紙。無視できない点数だが、それよりも気になったのは名前の方だった。
「あさき……」
その名は桧山の頭の片隅に十年もの間居続けていた。
髪を金色に染めてアクセサリーを身に着けた男子生徒の姿が浮かび、ちりちりとする胸のあたりで拳を握りしめる。
「あー!!」
甲高い声がして目を見開いてそちらの方へと顔を向ける。やんちゃそうな男の子だ。黄色い帽子と青いランドセルを背負っていた。
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