懐かしき顔

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「あ、迎えに来てくれたの」  やまとが手を振っている。桧山はしゃがんだまま動けず、プリントを持った手をふるう。  この出逢いですら偶然だというのに、すぐそばに浅木がいるかもしれないのだ。  いや、もしかしたら同じ名字なだけかもしれないし、大和がつり目だからと勝手に彼の子供だと思い込んで全然違うかもしれない。  確認するのが怖くてしゃがんだままで動けずにいると、 「え、桧山先生じゃん」  印象に残るような容姿をしているわけでもなく、面白い、怖い、優しい、そのどれにも当てはまらないだろう。地味でごくごく普通の男だから。  だから驚いた。まさか名前を呼ばれるとは思わなかったから。  顔を上げるとはじめに目に飛び込んできたのは髪の色。そして耳にはピアスとイヤーカフ。  髪色は同じ、ピアス類は昔よりも増えている。ただし指輪はなくブレスレットをしていた。  最後に会った十八歳、大人になりかけだった少年はすっかり大人の男になっていた。 「すごい! よくわかったねせんせいだって」  不思議そうな表情を浮かべる大和に浅木は笑って答えた。 「俺が高校生の時に担任だからな」  担任だといっても十年もたてば忘れていてもおかしくないだろう。  それなのに覚えていてくれた。そのことが嬉しくて口元がにやけてしまいそうだ。手で口元を覆って隠しておく。 「あ、オレがクローゼットのなかからみつけたアルバム」 「そうだ」  覚えていた理由を知り、ゆっくりと手を下ろして口元を結んだ。
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