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浅木から逃げるためにしたこととはいえ、なんだか自分の演技が馬鹿らしくて息を吐き出した。
先ほど大和と出逢った場所がもうすぐ。さすがに帰っただろう、そう思っていたのに。
「なんでいるかな」
桧山を見つけて手を振る背の高い男と小さな姿がある。
「先生、スマホあった?」
本当に忘れたのかを確認するために待っていたのだろうか。
「……あったよ」
「それじゃ連絡先教えて」
学生の頃もしつこいところがあった。変わらない部分を見つけてしまい深くため息をつく。
「わかった。当分は忙しいから。連絡があっても返さないからな」
きっと自分は酷い顔をしている。だがそんな桧山を見ても浅木の表情は変わらない。
客商売をしているのだから、そう簡単に顔には出さないだけか。
「了解」
お互いの連絡先を交換する。
「ほら、用は済んだだろ」
「わかった。帰るわ」
手をひらひらと振り帰っていく姿を眺めながら桧山は深くため息をついた。
「どうして十年もたったのに会うんだよ」
しかも偶然に会わなければ思い出しもしなかっただろう。彼にとってはその程度のことなのに、わざわざ確認までしにきて連絡先を聞いていくなんて。
胸がざわざわとしてシャツを強く握りしめた。
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