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@午後:学校・教室
#翠月 柚奈
「はっ……!?」
#???
「やーっと起きた! ほーら、若ちゃんに呼ばれてるよ!」
驚いて目を開けると、担任の暁 若虎先生が目の前に立っていた。
#暁 若虎
「ほー……。翠月、お前が居眠りなんて珍しい……なぁ?」
心の底から珍しいものを見るような顔で見下ろされていた。私はようやく現実の世界に戻ってきたことを実感した。 あぁ……もう帰りたい。夏休みの登校日に、あろうことか居眠りをしてしまったのだから。
#翠月 柚奈
「す、すすっすみません……!」
よだれを拭い、何度も頭を下げた。
私の担任は体育教師。体育教師といえば、怖くて普段あまり会話ができない存在。だからこそ、入学してからずっと注意深く振る舞ってきた。
いつもはクラスメイトに向ける、この厳しい視線。初めて自分に向けられ、全身から血の気が引いていく感じがした。
#暁 若虎
「普段はお前が辻崎を起こしてるっていうのに……どうしたんだよ、今日は」
……さて、どう言い訳したものかと考えていると。突然背後から抱きつかれた。
#翠月 柚奈
「わぁっ!?」
#???
「人間だもの! ……こういう日があっても良いじゃないっすか。ね、若ちゃん」
――突然抱きついてきた女の子は、辻崎舞美ちゃん。
先ほど起こしてくれた子で、数少ない友人のひとり。
#辻崎 舞美
「この子、最近まともに眠れてないみたいなんすよ~。だから怒っちゃだーめ! 怒ったら他の先生にチクっちゃうんだから」
#暁 若虎
「あのな~。1回居眠りしてるだけで怒鳴ったりしないから。というか辻崎」
意外にも怒られなかった私は目を丸くした。よくホームルームで、居眠りしてる生徒のことを叱りつけてる時があったから。
#暁 若虎
「いい加減、その若ちゃんって呼び方なんとかしろ……」
先生は呆れた声を漏らした。
#辻崎 舞美
「でも若ちゃんのほうが愛嬌あっていいっしょ?」
#暁 若虎
「いやだからそういう問題じゃなくてだな。立場をわきまえろと言ってるんだ。仮にも俺は教師だぞ」
悪びれもしない彼女に、先生は厳しい口調で忠告する。
#辻崎 舞美
「えー? でも苗字も名前も4文字で言いにくいし」
彼女は負けじと天真爛漫な笑顔で反論した。
#暁 若虎
「悪かったな、呼びにくい名前で」
先生は少しふてくされたように言った。
こんなふうに軽口がたたける彼女のことを、羨ましいと思う今日この頃。彼女の無邪気な態度と明るい性格が、日々の中で明るい光となっているのだと感じずにはいられない。
#暁 若虎
「文字数の問題じゃないんだ。なんでちゃんなんだよ。俺は女でも子供でもない」
#辻崎 舞美
「えー、いいじゃん、あだ名なんだし。細かい男は嫌われちゃうんだぞ~?」
舞美ちゃんはなぜか私の方をちらりと見て楽しそうに笑っている。
#翠月 柚奈
「……?」
舞美ちゃんの視線が先生の顔に移り、つられて私も先生へ視線を移す。
#暁 若虎
「……ッ!」
#翠月 柚奈
「……え?」
あれ……先生の顔が赤くなったような……?
#辻崎 舞美
「……あ! じゃあ若のほうがいい? 昔ヤンチャしてたって言うしワイルドでかっこいいと……」
#暁 若虎
「やめろ、まじでやめろ。俺の黒歴史をほじくり返すな」
恥ずかしい過去があるのか、頭を抱え始めた先生。こんな先生も珍しい。
#辻崎 舞美
「あーでも、うーん、それだとなんか今のキャラに合わないような?」
#暁 若虎
「何しれっと無視してんだこら、てか普通に先生と呼べ」
にっこりと笑顔を浮かべ「やだ」とひと言放つ舞美ちゃん。
#暁 若虎
「こ……い……つ……」
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