ep1-1「日常の光景」

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@午後:学校・教室 #翠月 柚奈 「はっ……!?」 #??? 「やーっと起きた! ほーら、若ちゃんに呼ばれてるよ!」 dc554c9e-a4d1-4405-9f9d-b8671e600ce9 驚いて目を開けると、担任の暁 若虎(あかつき わかとら)先生が目の前に立っていた。 #暁 若虎 「ほー……。翠月、お前が居眠りなんて珍しい……なぁ?」    心の底から珍しいものを見るような顔で見下ろされていた。私はようやく現実の世界に戻ってきたことを実感した。 あぁ……もう帰りたい。夏休みの登校日に、あろうことか居眠りをしてしまったのだから。 #翠月 柚奈 「す、すすっすみません……!」  よだれを拭い、何度も頭を下げた。  私の担任は体育教師。体育教師といえば、怖くて普段あまり会話ができない存在。だからこそ、入学してからずっと注意深く振る舞ってきた。  いつもはクラスメイトに向ける、この厳しい視線。初めて自分に向けられ、全身から血の気が引いていく感じがした。 #暁 若虎 「普段はお前が辻崎を起こしてるっていうのに……どうしたんだよ、今日は」   ……さて、どう言い訳したものかと考えていると。突然背後から抱きつかれた。 #翠月 柚奈 「わぁっ!?」 #??? 「人間だもの!  ……こういう日があっても良いじゃないっすか。ね、若ちゃん」 ――突然抱きついてきた女の子は、辻崎舞美(つじさきまみ)ちゃん。 8c2beff9-28a0-4085-9323-5a06f73ab2f8 先ほど起こしてくれた子で、数少ない友人のひとり。 #辻崎 舞美 「この子、最近まともに眠れてないみたいなんすよ~。だから怒っちゃだーめ! 怒ったら他の先生にチクっちゃうんだから」 #暁 若虎 「あのな~。1回居眠りしてるだけで怒鳴ったりしないから。というか辻崎」    意外にも怒られなかった私は目を丸くした。よくホームルームで、居眠りしてる生徒のことを叱りつけてる時があったから。 #暁 若虎 「いい加減、その若ちゃんって呼び方なんとかしろ……」 先生は呆れた声を漏らした。 #辻崎 舞美 「でも若ちゃんのほうが愛嬌あっていいっしょ?」 #暁 若虎 「いやだからそういう問題じゃなくてだな。立場をわきまえろと言ってるんだ。仮にも俺は教師だぞ」 悪びれもしない彼女に、先生は厳しい口調で忠告する。 #辻崎 舞美 「えー? でも苗字も名前も4文字で言いにくいし」 彼女は負けじと天真爛漫な笑顔で反論した。 #暁 若虎 「悪かったな、呼びにくい名前で」    先生は少しふてくされたように言った。  こんなふうに軽口がたたける彼女のことを、羨ましいと思う今日この頃。彼女の無邪気な態度と明るい性格が、日々の中で明るい光となっているのだと感じずにはいられない。 #暁 若虎 「文字数の問題じゃないんだ。なんで()()()なんだよ。俺は女でも子供でもない」 #辻崎 舞美 「えー、いいじゃん、あだ名なんだし。細かい男は嫌われちゃうんだぞ~?」  舞美ちゃんはなぜか私の方をちらりと見て楽しそうに笑っている。 #翠月 柚奈 「……?」  舞美ちゃんの視線が先生の顔に移り、つられて私も先生へ視線を移す。 #暁 若虎 「……ッ!」 #翠月 柚奈 「……え?」 あれ……先生の顔が赤くなったような……? #辻崎 舞美 「……あ! じゃあ若のほうがいい? 昔ヤンチャしてたって言うしワイルドでかっこいいと……」 #暁 若虎 「やめろ、まじでやめろ。俺の黒歴史をほじくり返すな」  恥ずかしい過去があるのか、頭を抱え始めた先生。こんな先生も珍しい。 #辻崎 舞美 「あーでも、うーん、それだとなんか今のキャラに合わないような?」 #暁 若虎 「何しれっと無視してんだこら、てか普通に先生と呼べ」 にっこりと笑顔を浮かべ「やだ」とひと言放つ舞美ちゃん。 #暁 若虎 「こ……い……つ……」
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