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ep1-2「優しい瞳」
――雑談の後、ばたばたと駆け足で教室を出て行く生徒たち。
どこかまだ中学生の面影があることに、少し微笑ましくなる。
#暁 若虎
「ったく……だから高1のクラスは面倒なんだよなあ。――けどまあ、俺も若い時はああだった、……か。」
生徒の前で見せることのない、どこか遠くに想いを馳せるような表情。
……深い悲しみを隠しているような寂しい顔。
そんな先生には似合わない顔を見てしまい、私は呆然としていた。
#暁 若虎
「ん?……翠月はまだ帰らないのか」
#翠月 柚奈
「ひゃい……っ!?」
#暁 若虎
「ははっ なんて声出してんだよ」
#翠月 柚奈
「ごごごごっごめ、ごめんなさい!」
自分でもとんでもない声が出たことに気づき、じわじわと自分の顔が熱くなっていくのを感じた。
――だめだ、今日はすこぶる調子が悪いみたい。
#暁 若虎
「……いや、俺のほうこそ驚かせて悪かったな」
#翠月 柚奈
「いえ……」
消え入りそうな声でなんとか返事をする。
「あ、私は課題を少し進めてから帰ろうかと……思っていたところです」
先生は、そんな私に気づいたのか穏やかな声音で語り掛けてきた。
#暁 若虎
「お前はその……もっと力抜いたほうが、いいと思うぞ」
#翠月 柚奈
「えっ……えっ、そうですかね……?」
#暁 若虎
「あぁ。あいつ、辻崎とまではいかないが……」
「もうちょっと気を抜いてもいいと思うぞ」
「学級委員を任せたのは俺だが、お前は1学期よく頑張ってくれたと思うし……」
「寝不足になるほど、なんでもかんでも頑張ろうとしなくていい」
#翠月 柚奈
「あ……ご、ごめんなさい」
#暁 若虎
「……いや、謝らせたいわけじゃないんだ」
「俺も、もっと先生らしく、気の抜き方を教えられたら良いんだけどな……」
そう言いながら先生は窓の外へ視線を移す。
「ま、お前の場合は辻崎っていう強烈な見本がいるしな」
「……あんまり俺の言ったこと気にするなよ?」
#翠月 柚奈
「はい……」
#暁 若虎
「まぁ……とにかく、基本的には夏休みだ。貴重な学生の特権を堪能してほしい。あと……」
「俺は基本的に学校にいるし、困ったことがあれば何でも言いに来いよ」
突然むけられた優しい笑顔に、とくんと胸が高鳴る。
#翠月 柚奈
「……っ!」
#暁 若虎
「ああ、勉強についてはノーコメントってことでよろしく……」
#翠月 柚奈
「は、はい……」
#暁 若虎
「ん。それじゃあな、気をつけて帰れよ」
先生はそう言い残すと、荷物を持って教室から出ていった。
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