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プロローグ
――遠い昔のことにございます。とある小さな村に、コトノハという若者が住んでいました。
眉目秀麗で頭も良かったコトノハですが、村人は彼を畏れていました。なぜなら、彼が言霊を自在に操る術者だったからです。
孤立していたコトノハの生きる目的。それは、まだ幼い妹の存在でした。彼は愛する妹を養うため、村長になることを決意しました。
村長を目指し粉骨砕身する日々。その甲斐あって妹が十歳になる頃には、コトノハは村長になるほど逞しく成長しました。
そんなコトノハを、幼い頃より守護していた神様こそが……。
――「言ノ葉守ノ尊」でした。平和な日々が永久に続いていくと、村の誰もが思っていました。ところが……。
東の地より悪しき妖怪たちが現れます。コトノハと言ノ葉守ノ尊は、妖怪たちから村を守るため、愛する者を守るため懸命に戦いました。
劣勢だと感じた親玉の鬼は、コトノハの最愛の妹であるスイを人質にし、言ノ葉守ノ尊の隙をつきます。こうして彼女の神力と霊力は奪われました。
そんな彼女をよそに、妖怪たちはやりたい放題。男は食われ、女子供は攫われて、田畑や家は焼かれてしまいました。
大切な村人たちが、悪しき妖怪によって次々と傷つけられ……。コトノハとスイも鬼の手に掛かり、命を落としてしまいます。
言ノ葉守ノ尊は深い悲しみに暮れ、やがて……村から遠ざかるように深い森の奥へと姿を隠しました。
彼女は何十年も、何百年も声が枯れるまで泣き続けました。
――森の奥にそびえ立つ大きな大きな、桜の木のうえで。
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