こんばんは

3/3
前へ
/4ページ
次へ
「あっ!!」 彼女が叫んだ。 彼女が興奮して、スピードを上げる。 俺は落ちそうになって慌ててつかまる。 「あったよ!」 とんでもない角度の崖の上に、一輪の花が輝いていた。 真っ暗な夜の世界の太陽。 俺たちはその光に目を奪われる。 その光は、今まで見えなかった彼女の目元を照らす。 「同じ、目の色なんだな。」 輝く花と彼女の瞳の色は同じ黄金だった。 「言われてみれば…まあ、似てるかも?」 何に対しても素直な彼女が照れたように目を背けた。 「じゃあ、はい。君にあげる。」 彼女は、恐る恐る花を切った。 そして、俺に渡す。 俺は震える手でそれを受け取った。 本当に、俺が使っていいのか? 言葉を発したら今にも折れてしまいそうな花を目の前に、問うこともできなかった。 俺は息をのむ。 花の使い方は、『お湯に溶かして飲むと効力が出る。』 いつの間にか彼女がお湯を差し出している。 寒い夜の中、かじかんだ手で差し出していた。 俺は小さく頷く。 花をコップに入れると、すぐに溶け出していった。 お湯は金粉を散らしたように、表面に黄金が残っている。 微かに、優しい甘い香りがした。 「ありがとう。」 俺が言うと、彼女はホッとしたように座った。 俺もその隣に座る。 彼女は、ぎこちない笑みを浮かべる。 「いいんだよ。君は生きてくれ。」 そう呟いた彼女の口に、俺はお湯を注ぎ込む。 彼女は目を見開き、俺を見つめながらもお湯を飲んでいった。 条件反射なのかもしれない。 彼女の口に全てのお湯を入れた時、俺は嫌な感覚を覚えた。 震えが止まらない。 「何で、私に飲ませるの!?私はどうせ未来明るくないのに!」 喚く彼女も俺の異変に気づいたらしい。 彼女が慌ててコップを見ても、そこには一滴たりとも残ってはいない。 「嘘!」 いいんだよ、お前は生きてくれ。 俺の分まで……。 俺は、そっと意識を手放した。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加