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様子を見ましょう
医者はカルテを見返していた。最後に小村がC外来に来てから半年が経過していた。
「小村さんですか? 何か、気になることでも?」
モニタをのぞき込んだ看護師が声をかける。
カルテには、初診時の訴えから最新までの彼の発言が記録されている。
医者は首を振った。
「彼はもう来ないと思います。私にできることは何もありませんから」
あなたが手に入れたいと思っているその性格は、すでにあなたの中にありますよ。そう何度も伝えたのだが、彼は気づいてくれただろうか。
「随分遠回りをさせてしまった気がします。……医者とは時に無力なものですね」
医者が力なくつぶやいた。
「私には先生がとにかく処方箋を出したいだけのように見えましたけれどね」
看護師がぼそっと付け足した。
そのとき、診察室のドアを控えめに2回ノックする音が聞こえた。
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