美しき死神

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鼓膜を引き裂くような断末魔に、恐る恐る体を起こす。 男は獣に喰われていた。 獣は狼に似た容姿だったが、体内に魔力を孕んでいる。 魔獣だ。 耳元で愁哉が唾を飲み込む音がした。 「痛いっ!いたいよぅ……」 男が手を伸ばしてくる。 「たすけ……て……。たす……」 黒い血がじわりじわりと廊下に広がっていく。 「たす……」 手が落ちた。 男は動かなくなった。 鉄臭い匂いが肺の底に沈む。 骨を齧る気味の悪い音が廊下にこだました。 ーー見るに耐えんな。 影の悪魔が嫌そうに呟く。 「全くだわ」 早々に幕引きといこう。 梔子は立ち上がり、愁哉を見下ろした。 「園部様」 「はい……」 呆然と座り込んでいる愁哉に、にこりと笑いかけ。 「ここからは魔法の時間です」 あまり魅られませんように。 愁哉がなにか言おうと口を開いた。 それに気づかぬふりをして、梔子は魔法を発動した。 ーーfinn(フィン)。 頭の中で念じる。 ただそれだけで魔獣は動きを止め、倒れた。 これが梔子の魔術だ。 標的の精神を空にし、崩壊させる。 「死んだ……?」 信じられない様子の愁哉を、梔子は振り向いた。 「どうします?この男」
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