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病気による突然死に見せかける手筈だったが、これでは誤魔化せない。
が、愁哉はあまり気にしていない様子だった。
「獣にまさぐられた跡があります。これならば、運悪く野犬にやられた、と報告できるでしょう」
「そうですか。魔獣の方は、私がいただいても?」
「いいですけど、どうするんです?」
「魔法協会に売るんです。結構良い値がつくと思います」
「ああ……」
そうですか、と愁哉は呆れたように笑った。
梔子もつられて笑う。
こんな凄絶な現場を前に、一体なんの話をしているのだろう。
まともでないのは私も同じ。
日常の裏で生きるとはそういうことなのだ。
「でも本当に魔獣が出るなんて」
宿舎を出て歩きながら、愁哉は空を見上げた。
少し削れた月に照らされ、2人の影が後ろに大きく伸びる。
吸い込んだ冷気は甘く、喉の奥に纏わりつく血の臭気を洗い流してくれるようだった。
「梔子嬢はご存知だったのですか?魔獣が本当にいることを」
梔子は髪を耳に掛けつつ、少し得意気な顔をする。
「事前にお話をお伺いしてましたから」
あ、と愁哉は声もなく溢す。
彼女は国分寺からの依頼を、魔獣退治だと思っていたではないか。
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