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国分寺中尉というのは、愁哉を諜報員として育てた人だ。
愁哉が心の底で忠誠を誓っている人でもある。
そして西院といえば。
愁哉はピストルをおろした。
「失礼。西院家のご当主でありますか」
「はい。以後お見知りおきを」
西院家はこの国で最も力を持つ、魔術師の家のひとつである。
昭和12年、春。
灰色の風に薄紅色が舞う時代。
園部愁哉は魔法使いの末裔と出会った。
この出会いが2人の運命を大きく変えることになるのだがーーまだ知る由もない。
「いやぁ、昨日は悪かったな」
国分寺の言葉を、愁哉は真っ直ぐ前を見たまま否定する。
「いえ」
「まさか奴が戻ってこようとは。一応、彼女を行かせておいて正解だった」
「梔子嬢のことでしょうか」
「うむ。魔法を見たのは初めてだろう。驚いたか?」
「は」
景気よく返事したものの、実はなにが魔法だったのか、愁哉はよく分かっていない。
昨日は後始末に追われ、そうしているうちに梔子は帰ってしまい、ほとんど話せなかったのだ。
「梔子嬢とは古い付き合いでね。なにかと仕事を依頼しているんだ」
「そうでしたか」
「おや、噂をすれば」
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