美しき死神

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ちらりと梔子を見下ろす。 と。 しっかり目が合った。 紺とも藍ともつかぬ瞳。 よく見れば碧も潜んでいる。 飲み込まれそうなーー心を奪われる不思議な色の瞳。 良くない。 愁哉は目をそらした。 昼過ぎの喫茶店は、レモン色の日差しに包まれて、和やかな空気が満ちていた。 蓄音機から流れるジャズの調べが、話し声を溶かしていく。 「中尉が急にすみません」 一応謝罪すると、梔子はティーカップに付いた紅を拭い、ソーサーに置いた。 「いえ。仕事ですから」 「と、申しますと?」 「魔獣の駆除でしょう?」 魔獣。 それは魔法使いと同じく、魔力を持った獣のこと。 日本が外の国へ向けて港を開いた、江戸時代末期。 濁流のように流れ込んできた、新しい概念たち。 そしてそれらに混ざり、魔物が闊歩するようになる。 古くから怨霊や妖怪と対峙してきた者たちは、彼らに対抗できなかった。 そこで台頭したのが魔術師たちだ。 以来、魔物退治は魔術師の仕事となったのである。 ちなみに、魔物の中でも獣の姿をした者を、今日では魔獣と呼んでいる。 「どこでそれを?」 コーヒーに角砂糖を入れつつ、何の気なしに愁哉は問う。
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