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梔子は第5師団の宿舎へ侵入を謀っている。
「職業軍人よ。当然じゃない」
後ろに長く伸びた梔子の影が、びりびりと不自然に揺らいだ。
ーー立場があっても腑抜けは腑抜けだ。
「そうかしら」
西院梔子は、自身の影の中に魔物を飼っている。
巷の人々は畏怖と軽蔑を込め、彼女をこう呼んだ。
グラットンウィッチと。
これは梔子が得意とする魔術とも関わりがあるあだ名なのだがーーそれはまた別の機会に。
愁哉の計らいで、見張りの兵は15分間動きを止められている。
決して長い時間とは言えない。
敷地内に着地した梔子は、早々に魔物の目を使うことにした。
これは影で飼っている魔物と、目を一体化させる術だ。
この目は魔力に敏感で、どんなに薄い痕跡でもきちんと捉えることができる。
ぼう、と梔子の瞳が赤く色を変える。
白い霞のようなものが、雑草の覆い繁った中庭を通り、古い建物へ続いている。
愁哉から事前にもたらされた情報によれば、これは旧宿舎であり、今は物置と化した建物だったはず。
古いものには魔が宿りやすい、というのは古今東西よく知られた事実だろう。
梔子は白いもやを辿り、黒く聳える建物の影へそっと足を踏み入れた。
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