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辛うじて冷静な聴覚が、ガチャガチャとベルトを外す、おぞましい音を聞いた。
最早己の欲求のためならば、男も女も関係ないらしい。
伸びてくる大きな手を眺めつつ、魔術を行使しようとした、まさにその時だった。
男が吹き飛んだ。
無様に転がり、壁に叩きつけられた男を追うのは、ここにいないはずの愁哉だった。
男は激しく噎せながら、横腹を抑えて起き上がる。
「てめぇ……っ!俺がどこの誰だと思っていやがる」
ただじゃ済まねえぞ、と呻く男の額に、愁哉はサイレンサー付きの銃を押し当てた。
「死人がどう証言するんだよ」
薄く笑う愁哉は、これから人を殺すのだとは思えない程冷静だ。
これが国分寺の懐刀。
日本帝国陸軍の肝煎。
次の戦争のトリックスター。
梔子は立ち尽くした。
まともではないと思った。
ぞわり、背中が粟立つ。
ーー梔子、後ろだ!
影の悪魔が警告するのと同時に、梔子は地面を蹴った。
「園部様!下がって!」
きょとんとする愁哉を押し倒す。
頭の上すれすれを、なにかが飛び越えていく。
ぐちゃり、肉の潰れる音。
「あ?」
男は間抜けな声を上げ、次の瞬間絶叫した。
ぎゃあぁぁぁぁああああ!
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