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ああ、これが最後かな。
向けられた銃口を前に、愁哉はなんの感慨もなく、そう思った。
そういえば昔、こんな話を聞いた。
人間は生きているうちに、3回死神がつくという。
愁哉の場合、1度目は6歳の頃だった。
泳いでいた友達を追いかけて川に入り、流されたのだ。
2度目は15歳の時。
陸軍の大佐だった父を狙い、青年将校たちが自宅に侵入してきた。
両親は殺されたが、愁哉は間一髪で救助された。
そして3度目は。
「なにか言い残すことはあるか」
はためく赤いカーテンを背に、男は笑っていた。
愚かなことに勝ったつもりでいるようだ。
愁哉は答えなかった。
既に情報は仲間へ引き渡した。
ここにはちょっとした後始末のために来ていたのだ。
そこを見つかってしまった。
諜報員としては間抜けな最後だが、勝ちはこちらである。
「まさかお前が鼠だったとはなぁ」
残念だよ、と男はわざとらしく首を振る。
愁哉は銃口を睨み付けた。
死神は人を試すらしい。
その人間を生かす価値があるのか。
なるほど、随分理不尽だ。
死神の価値基準など、知る由もないというのに。
そして引き金は引かれた。
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