うさぎさんと桃のおくすり

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あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいた。 おじいさんが山に出かけるとおばあさんは家事をする。 しかしこの数日洗濯をする姿をみていない。 「おばあさん、どうしたんだろう。」 一匹のうさぎがいた。 小さいときからおばあさんによくかわいがってもらっていた。 「おばあさん、どうしたの?」 庭先から声をかけるとおばあさんが現れた。 「おや、うさぎさんだね。」 でもいつもより元気がないし、顔色があまりよくない。 「おばあさん、お洗濯にでてこないから。」 「心配してくれたのかい。ありがとうね。」 「どこか病気なの?」 「そうだねえ。そのうち治ると思うのだけど。」 うさぎにはそうは思えなかった。 「お洗濯もしないといけないのだけど・・・。」 「おばあさん、みんなに手伝ってくれるように頼んでくる。」 うさぎはじっとしていられなくてみんなのところを駆け回った。 「あらあ、それはたいへん。お友達といっしょにお手伝いに行くわね。」 ハリネズミはさっそく支度をして向かってくれた。 「食べるものはあるのかしら。」 りすは木の実を集めてきてくれた。 「きのことかどうかな。」 きつねの子供たちもやってきた。 みんなが見守る中、おじいさんも帰ってきた。 「みんなありがとう。」 「おじいさん、おばあさんの様子はどう?」 「そうだねえ、もう幾日もかわりないようだが。」 「心配だねえ。」 動物たちはまいにち入れ代わり立ち代わりお見舞いに行った。 「おくすり、ないのかしら。」 いたちが提案した。 「病気の時はおくすりを使うとすぐによくなるっていうわ。」 「おじいさんにきいてみよう。」 しかしおじいさんはおくすりを持っていなかった。 どこでどうやっててにいれるのかさえわからない。 「どうしたらいいんだろう・・・。」 「あのう。」 こだぬきが手をあげた。 「神様にお願いしてみたらどうかな。」 こだぬきの話では山の奥に祠があって神様が祭られているらしい。 「そこにお供え物をして神様におくすりをくださるように頼んでみてはどうでしょう。」 「う~ん、うまくいくかなあ。」 「あたし、行きます!」 うさぎは小さい手をあげた。 「あたし、走るのは早いほうです。一生懸命かけていけば一晩でいけると思います。」 「そうか、よし。それじゃみんなでお供え物を集めよう。」 動物たちは思い思いにお供え物を持ち寄った。 おばあさんがはやく元気になりますように。 その思いをこめていろんなお供え物が集まった。 「気をつけていくんだよ。」 おばあさんはうさぎの小さい手を握って涙を浮かべた。 「はい。すぐに戻ってくるので待ってて。」 みんなの思いを背に、うさぎは走った。 ひとときも休まず、力の限り走り続けた。 日が暮れて薄暗くなった山道を、草に足を取られながら ひときわ重くなった荷物を気遣いながら うさぎは懸命に走った。 夜も遅くなってからようやく祠にたどり着いた。 祭壇にみんなのお供え物を並べる手が震えている。 「どうか、どうかお願いします。」 うさぎは懸命に祈った。 「こんな時間にだれですか?」 静かな声が響き渡った。 祠のおくからのようだ。 「あたしはこの山に住むうさぎです。」 「ほう、うさぎの娘御がどういうご用件かな。」 うさぎは事情を話した。 どうか、おばあさんの病気がなおるおくすりをください。」 「薬か。」 「はい、このとおりささやかですがお供え物ももってきました。」 「これではたりないな。」 「えっ・・・。」 うさぎは倒れそうになった。 「もっとたくさん必要ですか。それなら必ずあとで届けますから。」 「いや、薬には特別なものが必要だ。」 「なにが、なにがたりませんか?」 「おまえの命をもらおうか。」 うさぎは足をせいいっぱい踏ん張った。 恐ろしくて耳がぶるぶる震えているのがわかった。 それでもうさぎは顔をあげて声を高くして言った。 「かまいません!おばあさんを助けて!」 それだけ言うのがやっとだった。 うさぎは草むらに倒れて気を失ってしまった・・・。 目を開けた時は月明かりの中だった。 「あ、お月様が。」 うさぎはぼんやりと眺めていた。 「おくすり・・・。」 「目覚めたか。」 神様の声だ。 「か、神様!お薬、お薬を。」 祠の奥から淡い光が浮かび上がった。 子供のような姿をしている。 「うさぎよ。これを持っていきなさい。」 手渡されたのは桃の実だった。 「これは、おくすりですか?」 「そうだ。普通の桃とは違う。これをおばあさんにあげなさい。」 「ありがとうございます!では、渡したらすぐに戻ってきますので。」 「何をしに戻る?」 「え、あたしの命を、おくすりをもらうのに必要だから。」 神様は笑っているようだった。 「おまえの命はいらない。おまえの気持ちを確かめただけだ。」 うさぎはぽろぽろと涙をこぼした。 「ありがとうございます!一生懸命届けます。」 「また走っていくのかね。」 「はい、あたしには走ることしかできません。早くとどけないと。」 「そんな足で走っていけるのかね?」 うさぎは自分の足をみた。 あちこち傷ついてぼろぼろになっている。 「まだ、まだ走れます。大丈夫です。」 神様からすぅ~っと一筋の光がでてきてうさぎの体を包んだ。 「うさぎよ。帰りは送ってやろう。目を閉じて5つ数えるのだ。」 「は、はい。」 「おばあさんやみんなによろしくな。」 「はい!」 うさぎはぎゅっと目を閉じると桃の実をしっかりを握って数を数えた。 「ひとつ、ふたつ・・・。」 閉じているはずの瞼を通して明るい光を感じる。 あたたかくてやさしい、春の日差しのような光だ。 「・・・いつつ!」 数え終わるとパッと目をあけた。 もう明け方になっていた。 「あ、帰ってきた。」 みんなが駆け寄ってくる。 「はやくおくすりを・・・。」 「えっ、桃の実??」 みんなは驚いている。 「これがおくすり?」 「う、うん・・・・。」 なんだか急に自信がなくなってきた。 使い方も聞いていないのだ。 「とにかくおばあさんにあげないと。」 「そうだね。」 おばあさんは床におきあがって桃の実を押し頂いた。 「ありがとうね。たいへんだっただろう。」 うさぎの手足はいくぶんよくなっていたが、それでもおばあさんはかわいそうだと泣いてくれた。 「これ、どうやって使うのだろう??」 「とりあえず、食べる・・のかな。」 それしか思いつかない。 「まな板と包丁を持ってきて。」 みんなでおばあさんのもとに運ぶ。 「じゃあ切りますよ。」 おばあさんが慣れた手つきで包丁をいれると桃の実はひとりでにぱかっと割れた! 「うわっ。」 桃の実の中が光っている。 「なんだなんだ??」 中には・・・あかちゃんだ! 「これ、おくすりなの??」 動物たちが慌てふためく中、おばあさんは冷静だった。 「みんな手伝って。お湯を沸かしてちょうだい。あときれいな布も。」 「は、はい;」 なにがなんだかわからない中、動物たちはいわれるがままに立ち働いた。 落ち着いたのはすっかり明るくなってからだ。 あかちゃんは男の子のようだ。 体を拭いてもらってさっぱりしたのか、すやすやと眠っている。 おばあさんは動物たちに手伝ってもらって赤ちゃんのお世話をするのに忙しかった。 「結局おくすりってなんだったんだろう。」 おばあさんはすっかり元気になったではないか。 「やっぱりあの桃の実がおくすりだったんじゃない?」 うんうん、そうとしか思えない。 桃は直接病気を治したわけではなかったけれど おばあさんが元気になったのでうさぎはとてもうれしかった。 「おくすりはね。」 おばあさんは言った。 「ほんとのおくすりでなくてもいいんだよ。」 「どういうこと?」 「みんなの気持ちもおくすりなんだ。」 動物たちはちょっと鼻が高い。 「もともとわたしたちがもっている生きるちからをひきだすものがおくすりになるんだよ。」 「あかちゃんも?」 「そうだね。世話をしてあげようって思う気持ちがちからになる。」 なるほど、みんなもわかってきた。 「あたしもだれかのおくすりになれるのかな。」 ちなみに男の子が大きくなるまでおじいさんもおばあさんも病気ひとつしないで元気に暮らしたそうだ。 めでたしめでたし。
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