5人が本棚に入れています
本棚に追加
診察室には、私とお嫁さんだけが残った。
お嫁さんの顔が緩む。
「疲れてるわね」
私はそう言って、お嫁さんにビタミン剤を渡した。
「すみません」
小さい声で、そう返事したお嫁さんに対し、私はこう言った。
「医者としての長年の勘だけど、あなた姑にこき使われてるんじゃない」
お嫁さんは私を見て、目を丸くさせる。
「図星みたいね。今から言うことをよく聞いて。私は医者として、特別指示書というのを書きます。それをすると、医療保険で看護師が訪問できるようになります。看護師から容態が悪いと連絡受けると、私も往診で自宅に向かうことができます。後は救急車を呼んで、病院に搬送します。搬送先は、このクリニックと提携しているところ。そこで入院、その間、介護保険を申請して、入院先から老人ホームに移動させる事ができます。お金はかかりますが、あなたは自由を手にする事ができます。あなたのためにも、そのような段取りを取りたいのですが、よろしいですか」
私の説明を聞いていたお嫁さんは、涙を流しながら、首を縦に振った。
「ありがとうございます。そうしたら姑さんには、軽めの痛み止めを出しておきますね。おくすりを全く出さないわけにもいかないから」
そう言うと、お嫁さんは席を立ち、私に深々と頭を下げた。
「そんなに頭を下げなくてもいいのよ。姑さんには、CT検査の結果をもとに、もっと詳しく調べさせて下さいとでも言っておくわ。大丈夫よ」
お嫁さんは泣き続けている。
そんなお嫁さんに、私はこう言った。
「あなたの身体、お守りします」
(終わり)
最初のコメントを投稿しよう!