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第20話
薄暗い雨の中、背後を気にしつつレキシントンホテルから足早に遠ざかる。
「僕らまでしっかりお尋ね者ですね」
「別に実況見分くらい構わんが、張り付かれると困るからな」
「発砲しちゃいましたからねえ」
「片がついたら勾留でも何でもされに行けばいい」
何本かの通りをやり過ごしてから目についたファストフード店でランチとドリンクを買い込み、そこからタクシーに乗った。レイフに倣って大通りに一旦出てから右折し、入り組んだ裏通りをグルグルと巡る。二人とも方向感覚は悪くないので迷いはしなかった。
「尾行はなさそうですけど、忍さん?」
「ああ、尾行られてはいない。そろそろいいだろう」
ダウンタウンのような裏街の入り口辺りでタクシー料金の清算をして降り、歩いてゲームセンターに向かった。脇のドアを開け、階段を下ってドアに声を掛ける。
「レイフ、霧島と鳴海だ」
ロックの外れる音がしたので勝手に開けて入る。中ではパイプ椅子に腰掛けたレイフがこちらに向けてグロックを構えていた。二人だけなのを確認しデスクにグロックを置く。
「遅いけど、お昼ご飯買ってきましたから。食べてないですよね?」
「ああ、有難いな」
見るとデスクの周りにパイプ椅子が二脚増えている。
「上の店長に借りてきた。ボロだが座れる。異常に比重の高い躰じゃなければ」
「その店長とやらは大丈夫なのか?」
「捜一の頃からの長い付き合いだ。色々と便宜も図ってきたからな」
「なるほど」
霧島が紙袋をデスクに置いた。その袋から京哉が包みを出して丁寧に開けていく。
「中華、嫌いじゃなければいいですけど。チャーハンが五目とカニとエビ。こっちが酢豚で、これが春巻き。肉団子にドリンクがウーロン茶。食べましょうよ」
狭いデスクいっぱいに広げた色鮮やかなランチに男三人は取り掛かった。
「あんたらは日本の警察で何をしてるんだ?」
「うーん、色々と複雑ですけど、今は県警本部長の密命で動いてますね」
「それはすごいな。霧島もずっと本部長命令か?」
「まあ、最近はな。だが本業は機動捜査隊長だ。レイフ、あんたは?」
「俺は任官して八年、異動はしたが捜一ばかりだな」
「ずっと現場ばかりなんですね」
エビチャーハンを口に運びながら、京哉はデスクに置いてあるウィスキーの瓶と、並んだフォトスタンドを眺める。
意外なくらい美しい彫刻の施されたフォトスタンドには一葉の写真が入っていて、パウダーピンクのブラウスを着た長い黒髪の女性と肩を組んだレイフが映っていた。
この女性がエメリナ=オドンネルなのだろう。
レイフの隣でエメリナは弾けるように笑っていた。
食べた空容器を袋に詰め込んでしまうと京哉は煙草を咥えて火を点ける。これも上から調達してきたのかデスク上には灰皿が増えていた。レイフも気の利く男である。
一本吸ってしまうと京哉はウーロン茶を飲みつつ携帯操作し始めた。グリーンディフェンダーについての情報収集だ。そうしながらもデスクの上のエメリナの写真に目が行く。
もし霧島が殺されるようなことがあれば、自分も復讐に走らずにはいられない。今までにも霧島が生死不明となった際、関わった人間全てを殺すための準備をしたことすらある。
胃に血の集まった三人の頭が回り始めた頃、京哉の携帯を囲み捜査会議を始めた。
「これがグリーンディフェンダーのホームページです」
「別に変ったところもない、自然環境団体のサイトに見えるな」
「だけどコマーシャルのポップアップが全て、何回読み込み直してもフランセル総合医薬品工業なんです。フランセル総合医薬品工業のホームページには『グリーンディフェンダーへの活動資金拠出』が企業のボランティア活動として載せられてます」
「エコテロリストに医薬品会社か。やっとクスリに一歩近づいたみたいだな。だがそこに日本の議員である平塚吾朗や坂下俊夫に沢村忠治がどう絡むかだ」
「それはこのシンハにコンビナートを造るなんてエコテロリストには許されざる行為だから暗殺されたんじゃないですか? 沢村議員も社会的に殺されたも同然ですし」
だが霧島は納得できない。旨味ある法案として新たに与党総務会長でありエクセラゼネラル重工を後押しに持つ咲田由文を始めとする議員たちが群がっているのだ。
「では日本以外でこのシンハにコンビナート建設を唱えている議員はいないのか?」
「それくらいなら検索すれば出てきますよ。ちょっと待って下さい」
日本語表記のサイトを検索し、五分ほどで京哉は答えに辿り着く。
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