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第21話
「忍さんが言ったの、ビンゴかも。このシンハをかつて植民地にしていた某大国の議員でオーセリー=ライト議員とジェローム=ビアス議員ですね」
「どれ、オーセリー議員は地元企業が集票基盤で白のようだな。問題はジェローム=ビアス議員だ。このシンハで資源開発・採掘から化学製品の製造までを一貫してやっているグラチェフコーポレーション本社から高額の政治献金を受けているらしい」
「それだけの企業なのにマル害十二件の中にグラチェフの名はありませんでした」
「ああ、グラチェフコーポレーションの社長、アキーム=グラチェフは未だ健在だ。エネルギー財団メンバーにも関わらず。これで少しずつ見えてきた気がするな」
「俺には何も見えないんだが、説明する気はあるのか?」
そう言って顔をしかめたレイフに、二人は日本で与えられてきた特別任務のことまで隠さず話した。まずはスタートラインを揃えなければ共同戦線も張れない。
「グリーンディフェンダーとフランセル総合医薬品工業の繋がりに、ジェローム=ビアス議員とグラチェフコーポレーションの繋がりか。グラチェフはグリーンディフェンダーが真っ先に狙うだろうと俺も警戒して暫く張ったんだが何の気配もなくてな」
ウーロン茶を飲みながら霧島が頷く。
「遙か地球の裏側の平塚議員が殺されてジェローム=ビアス議員が殺されないのは妙な話だな。こうなるとグラチェフがフランセル、または直接グリーンディフェンダーと何らかの取引が成立していると見るのが妥当ではないだろうか?」
「それに政治献金を受けてる以上、ジェローム=ビアス議員はコンビナート建設参画会社に、このシンハで地元のグラチェフコーポレーションを当然推すでしょうね。その利益は計り知れませんよ。支援金を出す国家としても見逃せない美味しい事業となる筈です」
そこでレイフが頷きながら口を開く。
「このシンハでグラチェフコーポレーションと、その殺された平塚議員の後押しというビクトリア資源開発といえば何かにつけて引き合いに出されるライバル企業だ」
「なるほど、ビクトリア資源開発は旨い話から蹴り落とされたのか。これで平塚議員殺しの謎が解けた上にジェローム=ビアス議員とグラチェフも読めたな」
「じゃあ県会議員の坂下氏は何で消されたんでしょう? 沢村議員もですけど」
「平塚議員の子飼いだったからだろう。のちの禍根となりそうな人物だから表舞台から消された。逆に咲田議員の後押しのエクセラゼネラル重工は上手く時流に乗ったのだろう」
「ああ、単純。残りはグラチェフコーポレーション、グリーンディフェンダー、フランセル総合医薬品工業のラインですね」
「その三つを繋ぐ何かがある筈だ。狂信的ともいえるグリーンディフェンダーをコントロールし、グラチェフに手を出すことを止め得る存在。レイフが言った『誰か』がキィだな」
三人して考えたがそこから先に進めない。ジェローム=ビアス議員は遠い某大国でグリーンディフェンダーに近づくのは危険すぎる。グラチェフかフランセルに入社していたら何年掛かるか分からないという状態で、誰も良案が浮かばない。
「何とかしてグラチェフかフランセルを探らないと」
聞いていたレイフがきっぱりとした調子で告げる。
「優先順位はグリーンディフェンダーに直接関わっているフランセルだ」
「レイフはそっちへの復讐がメインなんでしょうけど、医薬品工業相手じゃ、霧島カンパニーの看板を利用して忍さんが視察訪問する訳にも行きませんよ?」
「だが一番窓口が広い気はするな。よし、フランセルに絞ろう」
そう霧島は即断した。グラチェフコーポレーションは何らかの取引でグリーンディフェンダーの狙いから外されている。そこまで分かっているのなら残りのフランセル総合医薬品工業を探れば、自然と前者のラインも補強されるだろうと踏んだのだ。
「レイフ、フランセル総合医薬品工業は何処にある?」
「工場地帯に近い。ショッピング街の向こう、自社研究所と病院も併設されている」
「病院ねえ。誰か通院でもしてみますか、レイフの怪我を診せに行くとか」
怪我した左腕をレイフは振った。
「単なる患者が探れるものなど限られてると思うが。おまけに弾傷は通報される」
頷きつつ京哉は携帯を操作し、フランセル総合医薬品工業のホームページを再び表示するとコンテンツをじっくりと眺め始める。霧島とレイフも覗き込んだ。
「企業概要も変じゃない、普通に見えますね」
「ラボは何を研究しているんだ?」
「医薬品会社だもん、新薬とかの開発じゃないですか? 病院のサイトはこれです」
「ふむ……いやに産婦人科のベッド数が多いな」
「あそこは総合病院だが、産婦人科のレヴェルが高いので有名なんだ。総合病院だと知らない人間も結構いるくらいだ」
「企業年表は……二十七年前に大々的に産科の受入数を拡大か。うーん、不審なまでにクリーンな気がしますね。勿論こんなページに汚点を書いてアップする訳もないですけど」
幾つかのページを繰っているうちに霧島が京哉の手を押さえて止めた。
「何、どうかしました?」
「これ、ここのインフォメーションに『募集』がある」
「『医師・看護師募集』に『調理師募集』。あと『治験参加者募集』。治験ねえ」
治験とは、医薬品もしくは医療機器の製造販売に関して薬事法上の承認を得るために行われる臨床試験のことだ。レイフが霧島に鋭い目を向けて訊く。
「医薬品の治験なら内部を探れるか?」
「行ってみないと分からん。だが堂々と中に入れるのは確かだろう」
「治験に行って具体的にはどうするんだ?」
「それも行ってみてからだ。治験者は毎日、随時募集と書いてあるぞ」
「このままネットで申し込みができるんですね」
「明日の十時半、三人分でいいな?」
京哉とレイフが頷き、霧島が携帯でそのまま三人分の申込書を打ち込む。送信すると十五分足らずで三人の携帯に【ご応募ありがとうございます】云々と了解の返信が入った。治験程度で探れることは限られていそうだが、何かの足掛かりにはなるかも知れない。
小さな画面の文字を読み取ったのち、レイフはフォトスタンドに目をやった。
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