第33話

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第33話

 まるで特攻のようにここまで来たが、レイフも京哉も片道切符のつもりはない。  ここからが正念場だった。  京哉は自分と霧島のシグのマガジンを満タンのものとチェンジする。そして霧島のシグをベルトの後ろに挿した。マガジンパウチはベルトに装着する。  この先は霧島を担いだレイフを前衛に出す訳にはいかない。京哉は非情にもアキームを押し出し自動ドアのセンサを感知させる。  開くと同時に複数の撃発音が廊下に響いた。アキームが血飛沫を上げる。その身を盾に京哉は四人を速射で撃ち倒した。  霧島ほど甘くない京哉は弾の温存で容赦なくオールヘッドショットを決めていた。 「そんな掠り傷で喚かないでくれるかな」  あくまでアキームを盾にして歩き出す京哉はかなりの鬼畜である。 「しかし、大した腕だ」 「僕の専門はライフルだから。ハンドガンは五分を張る、ううん、忍さんが上かも」  自分が担いだ男の端正な横顔をレイフは見た。 「いいバディ、羨ましいくらいだ」 「ふふん、でしょう? レイフのバディは?」 「勿論いた……あいつのことも裏切ってしまったが」 「きっと、分かってくれてるよ。きっとね」 「そう、だろうか」  だが今は感傷に浸っている場合ではない、レイフは足取りを速める。痩身ながら長身でしっかりとした体格のレイフには、長距離でなければ霧島を担いで移動するくらい造作もなかった。物騒なセキュリティ要員たちもなりを潜めた廊下の先を急ぐ。  だが檻の区画を通り過ぎるとき、レイフは知らず歩調を緩めた。 「コーディのこと? 今は無理だよ」  斬り捨てるように言った京哉にとっては何よりも霧島が大事で、事実、早く医療機関に診せなければ命が危うい。だがあと少しで階段に辿り着くという時、ふいに前方から撃発音がしてアキームが頽れた。反射的に京哉は前方に向けてダブルタップを叩き込む。  だが腕で顔と頭を庇った人影は、軍服を着た腕から血飛沫を上げながら悠々と近づいてきた。レイフも一瞬遅れてダブルタップ。だが軍服の下にアーマープレートでも仕込んでいるのか、男女二名は無表情で身を揺らがせもしない。その爬虫類めいた二人は銃を取り出す。 「もしかして某大国の『恐れ知らず』、人間兵器かも!」 「まさか……D・Nの成功例か?」  訊き返しながらも自分たちの歯が立たない相手ということをレイフも悟っていた。それでも精確な狙いをつけさせないために撃つ。撃ちながら後退した。敵は悠々とこちらを追い詰めて殺すつもりらしい。四肢から血を流しながらもまるで効いていないようだ。  そうして無言で翻弄されるうちに二人と担がれた霧島は、僅かずつ退路である階段から遠ざかりつつあった。京哉とレイフは口を利く余裕もない。  スペアマガジンを持たないレイフのグロックから九ミリパラが減る。数えていたラスト一射が発射され、グロックは十八発を撃ち尽くしてホールドオープンした。  京哉一人では抑えきれないのは明らかだった。こうなると一か八かだ。京哉は残弾三発のうち二発を男女にぶち込むと、不気味に近づいてくる彼らに対し、まともに背を向けて走り始めた。ジャンパーの裾を強く引かれたレイフも京哉のあとを追う。 「どうするつもりだ!?」 「籠城戦、あの檻の部屋に行く!」  自ら追い込むようだが賭けに出るしかなかった。構造を知っているあの部屋以外に逃げ場は何処にもない。走りに走ってセンサ感知。自動ドアが開く。檻のフロアに走り込みながら京哉はマグチェンジ。一番奥まで辿り着くと京哉はコーディの檻の鍵を撃ち壊した。  さすがに霧島を担いでの全力疾走は堪え、レイフは早々に霧島をコーディの檻の中のベッドに寝かせた。檻から出るとシグを両手保持した京哉と並び立つ。役に立たなくなったグロックを床に置いたとき、軍服の男女がゆっくりと姿を現した。  男女が手にした銃口が上がる。京哉は女の銃を狙い撃つ。女の銃は弾け飛んだが男の銃はそのままだ。男女が初めて爬虫類めいた表情を崩す。圧倒的優位に立って笑ったのだ。今までの即席『恐れ知らず』と違い、頬を歪めて笑いを表現したのが印象的だった。 「デッドエンドか……」  余裕を見せた男女はレイフに呟くだけの時間を与えた。  その瞬間を逃さない。  女が頭を撃たれて吹っ飛ぶ。男女が認知していなかった霧島のシグ、京哉のベルトの背後に挿してあったものをレイフが抜き撃ったのだ。同時に京哉も男の頭に一発を撃ち込んでいる。    だがシグを抜き撃つなり京哉を庇って突き飛ばしたレイフ自身も、長身を背後の壁に叩きつけられていた。男の方が放った四十五ACP弾二発を胸に浴びたのだ。
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