天使だった騎士と十年間の惚れ薬

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   満月の夜のこと。暗い庭、すすり泣く声に誘われて出逢ったのは天使。 「どうして泣いているの?」  涙をたっぷり浮かべてそこにうずくまっている子は男の子なのか、女の子なのかわからない。確かなことは、天使のように美しいということ。  長いまつげは涙に濡れて、滴り、ぽたんと落ちた。 「あなたの涙、きらきらね」  天使の隣に座った私は声をかけた。天使はまだ泣き続けている。  そうだ、お母様がいつもくれるおくすりをあげよう。 「元気が出るおくすりをあげるわ」 「おくすり嫌い」  天使はぽつりと呟いて、涙がまたこぼれる。 「大丈夫よ、私のお母様は天才の魔女なの。いつも元気が出るんだから」 「苦いのやだ」 「飲み薬じゃないから安心して」  私は天使の前髪にそっと触れた。さらさらの金髪。その隙間から涙が浮かんだサファイアが覗く。本当に天使だ。  天使の前髪を少し掬って、私はおでこに小さなキスをした。  どうか痛みが取れますように。 「はい、おくすり。苦くないでしょ?」 「うん」 「ほら涙も止まったでしょう?」 「うん、ありがとう」  涙が止まってもキラキラの瞳のまま、天使は笑顔を私にくれた。
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