血を与えし者の運命

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 エーデルにとっては生きていた中で大きな記憶でも、男にとっては忘れてしまうような記憶だった。 「あの時の御恩をお返ししたいのです」 「それでお前を喰ってしまったら、生かした意味がなかろう」 「いいのです。私はどうせ、お嫁にも行けないですから」 「なぜだ?」 「いきたくないのです!」 「嫁に行きたくない女がいるか?」  女は嫁ぐのが当たり前の時代に、そんなことを言う人間がいるのかと男は面白がった。  見た目も美しく、既に成熟している。エーデルと初めて会った時、変な男にまとわりつかれていたことを思い出すと、少し情けをかける目でエーデルを見た。 「まあ、お前の好きに生きるがよい」 「ならば、わたくしをお喰べください!」  なぜか、少し頬を膨らまし、怒ったように言うエーデル。 「貴様ごとき、喰う価値もない」  男は冷たく言い放つ。 「ならば、ならば……どうしたら貴方様を助けられますか」  その言葉に、澄んだエーデルの瞳から突然ポロッと涙がこぼれ落ちた。 「な、泣くな!」  突然の涙に、男は焦る。 「喰われないからと泣くやつがあるか!?」 「だって……」
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