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大人びた美しい見た目に反して、口を尖らせて子供のように泣くエーデル。
恐怖で泣き叫ぶ顔は何度も何度も見てきたが、こんな風に泣く人間は初めてだった。
「な、泣くな。この程度の傷、ほっとけば治る」
思わず、エーデルからこぼれ落ちる涙を親指で拭いとっていた。
「……」
男のその行動に、泣いていたはずのエーデルの顔がまた高揚していくのがわかった。
「なぜ顔を赤らめる」
「し、しりません!」
そのことを指摘すれば、また怒ったように顔を背けるエーデル。
「なんとも、夏の空のように表情を変える人間だな」
すっかりエーデルのペースに巻き込まれてしまった男は、だんだんとエーデルのことが気になりはじめていた。
「名はなんという」
「エーデルです」
「ほう、いい名だな」
「貴方様は?」
「私の名など聞いてどうする」
「先に訊いてきたのに名乗らないのは失礼です!」
「ああ、わかった。そうすぐ怒るな」
男は頭をかきながら、めんどくさそうに自分の名をこたえる。
「……ヴィレンスだ」
「ビレンス様?」
「“ヴィ”レンス」
「呼びにくい名ですね」
「貴様」
「ふふ、冗談です。素敵なお名前ですね」
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