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男の視線の先には、牙を剥きだし、今にも襲いかかりそうな狼の姿があった。
「や、やめろ、やめてくれ!!」
「失せろ」
腕に大きな傷を負いながら怯える男に、狼の低い声が地鳴りのように響く。
男はその言葉に、なんとも情けない声を出しながら走り去っていった。
魔族だ。それも、人喰いがもっとも好きな種族、人狼。
赤く鋭い眼光が、エーデルの方へと向く。
エーデルに再び、新たな恐怖が襲いかかる。
でも、エーデルは思った。このまま生きていても、また別の男に同じようなことをされるかもしれない。
そんな思いがふと頭を過ぎったとき、このまま食べられた方がいいのではないかと悟った。
ただならぬ覇気を纏った狼が、ゆっくりとエーデルへと近づく。
一歩、また一歩と。鋭い爪で地面を捕らえる音をさせながら。
すぐ目の前までくると、牙の生えた大きな口が開く。
喰べられる……!
覚悟を決め、またギュッと目を瞑るエーデル。
しかし、いつまで経っても痛みが襲ってこない。
それどころか、きつく縛られていた腕の縄から解放されたのだ。
「え……?」
エーデルは驚いて目を見開いた。
「これを羽織れ」
そう言うと、狼は口に咥えていた布をエーデルにかけた。
「なんで……?」
その言葉に、狼は応えることもなくすぐに森の中へと消えてしまった。
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