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その日は、満月。
いつもより森の中を明るく照らしていた。
「水を汲みに、川に行ってくるね」
「まだ魔物がいるかもしれないよ」
「大丈夫。今日は満月だし」
満月の夜は、決まって魔物が出ることはなかった。
理由はわからないが、満月の夜だけは人々が安心して眠れるのだ。
エーデルは、水を汲むための桶を持ち、すぐ近くの川へと向かった。
何往復かしていると、突然後ろの草陰から「ウウゥゥ」という唸り声がした。
エーデルは振り返り、すぐに息をひそめた。
逃げ遅れた魔物がそこにいると察したのだ。
「ウゥゥッ」
気づかれる前に、そっと小屋へと戻ろうと踵を返したとき。
その声が唸っているのではなく、苦しんでいるような声に聞こえた。
エーデルは何かに惹かれるよう、その草陰へと近づく。
弱っているならなおさら、その魔物は人間を求めているはずだ。
それでも、なぜか気になってしまい、エーデルはゆっくりと足をすすめた。
「ガルウッッ」
エーデルの気配に気づいた魔物が、低い声で唸る。
これ以上近づくなと言っているように。
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