988人が本棚に入れています
本棚に追加
このまま離れて、なかったことにしてしまえば、こんなつまらない言い合いのようなことをしなくても済むのに。
胸に蟠りを抱えて、地下に着いたエレベータから降りた。
慎也の車は、国産の高級車だった。黒いボディーは綺麗に磨かれていて、ドアノブに触るのも躊躇われるほどだ。
「俺が運転するから、お前は横に乗れ」
促されて助手席に乗り込み、シートベルトを付けた。慎也はよく行く店なのか、迷うこともなく目的地に着き、駐車場に車を入れた。
丸い窓が施されたお洒落なビル。ライトアップされた木々が落ち着いた印象を与えている。
木製のドアを慎也が開けると、背の高いすらりとした男が出迎えて、「ようこそ」と声をかけた。
「予約席はいつものように奥に用意してあります」
僕を見て、「慎也のツレにしては可愛いね」と声をかけた。
「智晴。それは俺の嫁だ。ナンパするな」
「ち、ちょっと、僕はまだ……」
「店先で騒ぐな」
慎也は驚く僕を置いて店の奥へと進んで行った。
最初のコメントを投稿しよう!