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 くうちゃんが唇を尖らせて、ゆっくりと息を吐き出す。白い煙が円の形を描いてふわりと宙に浮かんだ。ははは、とくうちゃんが乾いた笑いを漏らすと、煙は形を崩して夏の夜の生ぬるい空気に溶ける。色の抜けた茶髪が、鈍く点滅する蛍光灯の光に透けてきらきら光った。 「くうちゃん、すごいのねえ」  あたしはぱちばちと手を叩く。くうちゃんは得意げににんまりと笑みを浮かべると、もう一度煙草を咥えて深く吸い込んだ。途端、後ろからかいちゃんに頭を叩かれる。 「愛がいる時は吸うなって言っただろ、バカ」  くうちゃんが頭を押さえて振り向いた。眉間に皺を寄せたかいちゃんの顔を、同じように眉間に皺を寄せて睨みつける。 「うっさいわ、ボケ」  くうちゃんがそう言うと、かいちゃんはもう一度頭を叩いた。ぱしんといい音がする。いてえ、とくうちゃんが頭をさすった。  あたしが喜んだせいかな、とおろおろしていると、かいちゃんが優しく頭を撫でた。愛は悪くないから、とあたしの心を見透かしたように言って微笑む。かいちゃんの手は大きくて、ごつごつしていて、大きな木みたいで安心する。あたしもかいちゃんを見上げて笑った。ぽんぽんとあたしの頭を優しく叩くと、かいちゃんはくうちゃんの口から煙草を抜き取った。問答無用で、窓枠に置いていたビールの缶に煙草を突っ込む。 「あーっ、まだ飲んでたし吸ってたのに」  怒って缶に指を突っ込むくうちゃんを一瞥して、かいちゃんは台所へと戻って行った。背を向けてフライパンを振るうかいちゃんに、くうちゃんが思い切り舌を出す。鼻と目の間に皺が寄って、くちゃくちゃになった顔が面白くて、あたしはくすくす笑った。  開け放した窓の外からは、朝と夜を勘違いした蝉が微かに鳴く声がする。最後の1本だったのに、とぶつぶつ言いながら、くうちゃんは後ろで結んでいた髪をほどく。くうちゃんの髪はあまり手入れされていない割に長くて綺麗で、あたしはそんなくうちゃんの髪が光に透けるのを見るのが好きだった。
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