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「できたぞ」
かいちゃんが、ちゃぶ台に湯気の上る大皿を置いた。もやし多めの野菜炒め。あたしの嫌いなニンジンが入っている。ニンジンやだぁ、と足をばたつかせると、
「食べなきゃ大きくなれないぞ」
かいちゃんがあたしの額をこづいた。くうちゃんが箸とお茶碗を台所から取ってくる。あたしはブラウン管のテレビを背にして、足を伸ばして座った。あのひとに殴られてあちこち紫色に変色した足は、正座すると痛いからこの座り方しかできない。
くうちゃんとかいちゃんがあたしの向かいに座る。じゃあ、とあたしとくうちゃんの顔を見てかいちゃんが合図をする。
「いただきます」
3人で声を揃えて手を合わせた。ふふ、と小さく笑って2人と目を合わせる。
ニンジンをお皿の端に避けていると、つけっぱなしにしていたテレビからニュースが流れてきた。
「……住宅街で男性の遺体が発見されました。遺体はこの家に住む……さんと見られており、同居していた娘が行方不明になっていることから、警察は……」
かいちゃんがぎくりと肩をこわばらせる。くうちゃんが素早くチャンネルを変えた。わはは、とバカみたいな芸人の笑い声が部屋に響いて、あたしはテレビの方を向く。ほらちゃんと食べないと、とくうちゃんの声が飛んできた。あたしは「はぁい」と返事をして、渋々ニンジンを口に運ぶ。
くうちゃんとかいちゃん。そしてあたし。狭いアパートに身を寄せ合って、あたしたちは暮らしている。血のつながりがあるわけじゃない。
テレビでは、また芸人がわざとらしく大声で笑っている。あたしはそれに合わせて小さく笑った。くうちゃんがあたしの頭を撫でる。
「愛、楽しい?」
訊かれて、大きく頷いた。あのひとといる時より、よっぽど楽しい。よかった、とくうちゃんはあたしの頬についたご飯粒を取りながら、微笑みかける。
ここはあたしにとっての、森の中の家。ブレーメンの音楽隊が幸せに暮らした場所。
あのひとや警察、いろんなものから逃げてきて、あたしたちはここで暮らしている。
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