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 朝早くに、くうちゃんはあたしとかいちゃんが眠る布団から抜け出して仕事に行く。カーテンの隙間から、細くて眩しい白い光が差し込むぐらいの、早い時間。くうちゃんは新聞配達のお仕事をしているらしい。大変だねえ、と思いながらあたしは目を閉じる。  おしっこが漏れそうになって目を覚ます頃、今度はかいちゃんが家を出ていく。愛、起きたの。そう言って髭を剃りながら、かいちゃんは慌ただしく支度をする。レストランで働くかいちゃんは、どんなに忙しくても朝ごはんを必ず食べていくし、あたしの分もちゃんと用意してくれる。  寝ぼけ眼をこすりながら、トイレのドアを開ける。洗面もお風呂も一緒だから、正確にはトイレとは言わないのかもしれない。用を足してからぶるりと身震いして、水を流した。漏れる前に、トイレで用を足せるのっていいなあ。あたしはしみじみ思う。あのひとはそれすら許さなかった。おしっこ漏れそう、とどれだけ訴えても、机から立つことを許さなかった。  ちょうどくうちゃんが帰ってくる頃に、かいちゃんは家を出ていく。今日は玄関の前で鉢合わせしたみたいで、何か短く言葉を交わしていた。あたしはそっと玄関の扉に耳を近づける。 「……新聞の一面に2人……だからもうここは……」 「犯人は……だろ、……大丈夫」  二人が微かに話す声が聞こえる。よく聞こえなくて耳をぎゅっと押しつけてみたけれど、余計に何にも聞こえなくなった。でも、あたしは2人が何の話をしているのか知っている。  あたしが大嫌いな、あのひとの話だ。あたしは耳を塞いで、畳の部屋に戻る。  あっついわぁ、と言いながらくうちゃんはTシャツを掴んでばたばたと胸元を煽ぐ。このアパートにはクーラーがないから、扇風機とうちわで暑さを凌ぐしかない。 「ごはん食べたらどこ行く? また図書館でいい?」  くうちゃんの言葉にあたしは頷く。おにぎりと味噌汁にかけられたラップを取りながら、あたしとくうちゃんは手を合わせた。いただきます。声を揃えて言うと、くうちゃんはあたしと目を合わせて笑う。くうちゃんが笑うと、目尻にきゅっと皺が寄って可愛い。 「あたし、くうちゃんとかいちゃんの子どもに生まれたかったな」  呟いてご飯を頬張る。くうちゃんの動きが止まっていることに気づいてそちらを見ると、くうちゃんは泣きそうな顔で唇を噛み締めていた。
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