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③
で、今。
三澤君に手を引かれて、小走りにどこかへ向かっている。
課題提出が終わった後、お礼をしたいと言われて遠慮していたら、むんずと手首を掴まれてしまったのだ。
いったいどこに行く気なんだろう。もう五時半を過ぎている。登校初日に帰宅が遅くなればお母さんが心配する。それよりも、治療しているとはいえ負担がかかる運動は、胸を苦しくさせる。
「はあ、はぁ……三澤、君、止まって。私、もう走れない」
やっとの思いで言うと、三澤君は立ち止まって振り向き、驚いた表情をした。
「顔、真っ青! 俺のペースで走ったからか? ごめん!」
必死で謝ってくれる。
三澤君は悪くない。病気のことは伏せてくださいと学校に伝えているから、このくらいで私が調子を崩すなんて知らないんだもの。
「ううん。大丈夫、謝らないで」
「気がつかなくて悪い。体調が悪そうだな。礼はまた今度するから、今日はもう帰ろう」
三澤君が眉根を寄せて、私の手をほどく。途端に、今までの友達の姿と声が頭に浮かんだ。
──綾音ちゃんは病気だから仕方ないね。遊ぶのは今度にしよう。
──また体調悪いの? 無理しないで帰った方がいいよ。
「待って。行かないで!」
すがるように三澤君の腕に掴まった。
「みんなそう言うの。また今度ねって行ってしまうの。みんな心配はしてくれるけど、そばにはいてくれない。私が心臓の病気だから……!」
どうして今日会ったばかりの不良の三澤君にこんなことを言ってるんだろう。どうして泣きながら病気のことまで話しているんだろう。
三澤君だって困ってしまう。
でも三澤君はちっとも面倒くさがらずに、黙って話を聞いてくれていた。
私が心の澱をすべて出し切ってしまうと、ぽんぽん、と頭を撫でてくれる。それから朝日が照るように笑って、もう一度手首を握ってくれた。
「じゃあ、こうしよ!」
「え? きゃあ!」
おんぶ! おんぶをされている!
「俺が走ってやるから、一緒に行こう! 荷物落とすなよ」
「ええ?」
本当に走り出す三澤君。それも結構なスピードがある。
痩せていて小柄な私とはいえ、いくら三澤君が背の高い、骨格がしっかりした男子とはいえ、おんぶして重くないわけがない。
でも、三澤くんの足取りも私をかかえる腕も背中も力強くて、私は彼の頼もしさに心と体をゆだねた。
頬に当たる夕方の風が気持ちよかった。
流れていく景色が夢の世界のようだった。
もう長い間全速力で走っていない私には、それらは大きな感動だった。
それに、風になびく三澤君の赤い髪が夕日の色と同じで、とても綺麗だった。
朝日のような笑顔の、夕日色の髪の三澤君。あなたはどこか私のヒーローに似ているね。
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