28人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
⑤
その日をきっかけに、私は土日になるとドリームヒーローズのショーを見に行き、教室でも三澤君と話すことが多くなった。見た目のせいでクラスメートから敬遠されているけど、私は三澤君が頑張り屋さんで、心の優しい人だってことをもう知っている。
三澤君がレッドをやるのはお父さんに憧れていたのもあるけど、お母さんと三人の弟妹の助けになりたいからだ。
ショーがない平日は他にもアルバイトを掛け持ちしている。
ときどき学校に遅れたり休んだりするのは、一番下の妹さんが喘息がちで、よく体調を崩して看病しているから。
私はそんな三澤君を応援したくて、昼食がいつもパンの彼にお弁当を作ってみたり、授業で遅れたところがあると一緒に勉強したりした。休んだ日の課題を届けにおうちに行った時は、弟さんや妹さんとも一緒に勉強した。
ありきたりの応援だったけど、そうすると三澤君はぴかぴかの笑顔を見せてくれる。
「ありがとな。凄く助かる」と言ってくれて、いつもは強面の顔がとびきり優しくなる。お父さんの話をする時みたいに。お母さんや弟さん達に見せるみたいに。
病気のせいで人のお世話になるばかりだった私が役に立てるのがうれしい。
でも近頃、その笑顔がなぜか私の胸を痛くさせて、動悸を起こさせる。
応援を頑張りすぎているのかもしれない。喜んで貰えて張り切りすぎているのかもしれない。次に発作が起きたら大きな手術が必要になると言われている。体調には充分気をつけておかないと。
「大塚、調子悪い?」
弟さん達が宿題を終えて遊びに出て、静かになったリビングの椅子で胸を押さえていると、三澤君が隣に立って背を屈めた。
顔が近づく。
ドキ……ドキ、ドキ。
肩にそっと手が置かれる。
ドキドキドキドキ、キューッ。
「 嫌っ、近づかないで!」
あまりの胸の苦しさに、暖かい手をはじいてしまった。
呆気に取られている様子の三澤君を残し、一目散に三澤家を出る。
「大塚、待て! もう暗いから送るから!」
呼び止められたけど、今日はもう一緒にいたくない。
三澤君が近くにいると体がおかしくなる。
熱くなって、ドキドキして、切ない痛みが胸に走る。
変な顔をして、変な行動を取ってしまう。
どうしてこんなことになるんだろう。
「痛っ」
「あっ、すみません」
無我夢中で小走りになっていたせいか、人にぶつかった。見上げると、柄が悪いことで有名な高校の制服を着た、金髪の大柄な男子が私を睨んでいる。
「すみません、で済むかよ。すっげえ痛いんだけど」
「きゃっ」
手首を捻り上げられた。
「大塚!」
その時、私に追いついた三澤君が間に入ってくれた。でも運悪く、その人は以前から三澤君に絡んできていた他校の生徒だったらしく、私もろとも三澤君に言いがかりを付け始める。
「大塚、駅に入って帰れ!」
三澤君は体を張って私を逃してくれた。私は何にも考えられないまま三澤君の声のままに駅へ入った。後で考えれば、助けを呼ぶとか警察を呼ぶとかすればよかったのに、何もできないで。
結果、三澤君は他校の生徒との喧嘩で五日間の謹慎処分になり、スマホのメッセージにも既読もつかず、連絡が途絶えた。
最初のコメントを投稿しよう!