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⑥
三澤君がいない教室には色がない。赤い色が隣にないと不安で、手首のラバーバンドをギュッと握りしめる。
そばにいるとあんなに胸が苦しかったのに、そばにいてくれないともっともっと胸が軋む。
──会いたい。三澤君に会いたい。
この気持ちはきっと。
この胸の痛みはきっと。
確かめるために、三澤君の謹慎が明けた日曜日にドリームランドへ向かった。
朝一番の回に並び、開場までの一時間をじっと待つ。凍えそうに寒い日だったけど、持ってきたカイロを握って三澤君のぴかぴか笑顔を頭に浮かれば、胸がじわりと暖かくなった。
あと二十分、あと十分、あと五分……開場!
私は一番後ろの真ん中の席に座った。会場は暖房が効いていて、急な温度差のためか、朝から気が急いていたためか、少しばかり動悸がした。でも、もうすぐ三澤君に会えるからかもしれない。
ゆっくりと、小さく何度も息を吐いて呼吸を整える。
照明がいったん消えて、ショーが始まった。観客の「夢と希望」を奪おうとする悪の組織に立ち向かうドリームヒーローズ。レッドはいつもかっこよくて、敵を鮮やかに倒す。
子ども達にもママさん達にも、レッドは一番人気だ。
レッド、かっこいいでしょう? レッドはね、三澤君の時でもかっこいいんだよ? あの人はね、私の……私の、好きな人!
私は、三澤君が好き!
気持ちを自覚したその瞬間だった。舞台の真ん中にいたレッドのマスクが私の方を見た。動きを一瞬止め、ガッツポーズを作る。
私がいるってわかった? ううん、違うかもしれない。それでもよかった。三澤君の努力の証の華麗なアクションが決まるたび、私の胸は踊る。
見ているだけで嬉しくなる。元気が出る。勇気づけられる。
三澤君は間違いなく、私のベストヒーローだ!
「……っつ」
でもだんだんと苦しくなって、鼓動のリズムが乱れてくるのがわかった。これは恋のドキドキではなく、発作の方だ。
発作用の薬をカバンから出そうとするけど手が震える。目の前が暗くなって、私は座席から崩れ落ち、隣の席のママさんが声を上げた。ママさんに連れられていた小さな子は「うわぁん!」と泣き出す。
「ごめ……なさ……ショーの途中なのに……」
みんなが楽しでいるショーなのに、今から花火や水の演出がある見せ場なのに……三澤君が頑張っているのに、私の病気が台無しにする。
苦しさと情けなさで涙が出てきた。朦朧とする意識の中で「三澤君の邪魔になりませんように」とラバーバンドに祈った。
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