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「レッド、助けて!」  私は大きな声でレッドを呼んだ。  レッドは舞台セットの高い岩から飛んできて、一回転して片膝を立てた座り姿勢で着地する。    さすが、かっこいい!  でも、この後レッドは決めポーズをして参上の決め台詞を言うはずなのに、観客から(さら)われたヒロイン役の私を見て、呆けて固まってしまっている。 「え……? 大塚? ……ぶっ!」  そのせいでタイミングが合わなくて、敵役のヒールキックをまともに受けて尻もちをついた。 「三澤く……レッド!」  退院の日をごまかし、スタッフさん達にお願いしてサプライズを仕掛けたけど、驚かせすぎた? 焦って手を伸ばすと……。 「レッドが危ない! レッド頑張れ!」 「レッド頑張れー!」  客席から大応援が!   レッドのピンチに子ども達が先に声を上げ、大人も続いた。  レッドはハッとして立ち上がる。それから見事なアクションを披露して立ち回り、私を悪の組織から救ってくれた。  ステージ後。お客さんがいなくなった観客席で座って話した。 「おかえり。もう大丈夫なんだな?」 「うん。私には強いヒーローが付いていたから、頑張れたよ!」  コスチュームを上半分脱いだ三澤君を見つめ、手首の二本のラバーバンドをかざす。 「大塚の方が強いよ。……俺のヒロインは最強だ」  三澤君はぴかぴかの笑顔で腕を伸ばし、私を抱きしめた。  赤い髪が照明で輝いていて、やっぱり綺麗な色だと思った。  その後私達は同じ大学に合格し、私は医学部に、三澤君は社会学部観光学科に進んだのだけど……なんと、彼は戦隊物番組の主役にスカウトされて、芸能界にデビューをした!  ひとりのヒーローが導いてくれた素敵な縁が、私に生命(いのち)を与え、三澤君を全国のヒーローにしたのだ。  だから出会ってから二十年経った今でも、事あるごとに我が子達に自慢している。 「パパとママは、ドリームレッドに導かれて出会った、運命のふたりなんだよ」 と、運命の赤い糸ならぬ、赤いラバーバンドを見せながら。        終
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