天啓

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「私と彼は運命なんですね?」  彼女は目を見開き嬉しそうにカードを見つめた。カードは彼女からは正位置に見える。でも私からは逆位置だ。私から見るとふたりが手を繋ぎ、地面に真っ逆さまに落ちていくように見える。  良くない結果だ。しかしこのふたりの出合いが運命である事に違いはない。離しても、引き裂いても、ふたりは必ず一緒になってしまう。逃れられない運命なのだ。 「最後まで添い遂げるって事ですか? ふたりで天国に行けるって事なんですね?」 「……地獄かもしれないわよ」 「それでも構いません。彼と一緒ならどこでも天国です」  女性は覚悟を決めたようだ。もう誰が何と言おうと彼と一緒になるのだろう。  彼女が去った後、私はその後の予約をキャンセルした。とても疲れた。  ミセスから占い師を長く続ける秘訣は「忘れる事」だと言われた。相談者の事も、鑑定の内容も、全て忘れてしまいなさいと言われた。相談者の人生は相談者のもの。占い師が背負う必要はない。だから忘れなさい、と。  私は忘れようと努力した。彼女がどうなろうと私の責任ではない。彼女が選んだ未来なのだ。私が何をしても変わる事はなかったのだ。占い師が他人の運命を左右出来るなんて事はない。その人の運命はその人が決める。占いに来たのもその人の選択。その結果をどう解釈するかもその人の自由。運命は個人が決めるものなのだ。
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