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祖母はそれから一年で亡くなった。
若い頃からのリウマチと、最近見つかったALS(筋萎縮性側索硬化症)で弱り、インフルエンザで肺炎を起こし、入院中に亡くなった。
二度お見舞いに行ったが、もうまともには話せなかった。
亡くなっても、葬儀でも、涙は出ない。
しかしなぜか、棺桶に花を入れながら、両目からひと粒ずつだけ涙が落ちた。
花にはそういう力があるのかも知れないが、自分にそんな感性があるのかと不思議に思った。
祖母は合格を待てなかった。
社会福祉士は一度落ちて、次の年に合格した。
お互い、ちょっとずつ約束を破ったが、気にしない。
ましてやバチなど当たりはしない。
約束は守るものかも知れないが、人は明日にでも死んでしまうかも知れないもの。
本当はわかっていた。
普段仕事で見ているのだ。体力の下降具合や、病気の進行などで何となくわかる。
よほどでなければ、二年間生きることは難しいと。
約束を守ることだけに価値を置かなくても良いだろう。
約束とは、縁を結ぶということ。
言葉の紐を結びつけるもの。
明日死んでも、今日の縁を結ぶ。
昨日死んだ人と、結ばれた縁と共に生きる。
墓参りにはごくたまにしか行けないだろうけど、ばあちゃんの了解は得ている。
実は、造花の話の後でどさくさに紛れて「俺の代で墓じまいをする」ということの了承ももらった。
俺は気にしない。
ばあちゃんの思い出は心に、墓に行かなくてもここにある。
熱心に墓を磨く、祖母の姿を胸に刻み、しかし同時に墓参りをしない自分を許している。
仕事終わりに夏の夕暮れを眺めながら。
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