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「おばあちゃん、お墓新品なのに、そんなに磨かなくても良いんじゃない?」
祖母は、柄のついたタワシを使って、祖父の墓をてっぺんから地面まで、ゴシゴシと磨いていた。
子どもだった僕は、線香や蝋燭を準備したり、水を汲んで来たり、慣れない作業に疲れて砂利の上にしゃがみ込んでいる。
「トオル、これはな、お風呂と一緒なんよ。今磨いてるんは足の裏あたりかな?トオルも毎日お風呂入るやろ?」
「入る。たまに入るのイヤだけどね。じいちゃん、僕と違って汗かいたりしないよ?」
祖母は笑い、墓に水をかけた。
「汚れたかどうかでお風呂に入るか決めるもんでもないね。毎日入るもんだよ。おじいちゃんは汗かかないし、ニ、三日に一回くらいで我慢してもらうけどね」
「うーん、まあ、確かに何もしなくてもお風呂は入るね」
僕は頷き、花を水に差し、蝋燭に火をつけた。
風が何度か火を吹き消してしまう。
祖母は風上にしゃがみ込んで風を塞ぎ、僕はやっとで蝋燭と線香に火をつけた。
線香の煙は吹き飛んでいくが、仄かに香る線香の匂いは嫌いじゃなかった。
目を閉じて、手を合わせる。
何を祈るでもなく、頭の中には何もない。
祖母が立ち上がる気配を感じてから、目を開けて立ち上がる。
振り返ると、町の景色が見える。
「じいちゃん、墓の目の前パチンコ屋だね」
「パチンコばっかり行って、今日も行ってるかもね」
二人で笑った、夏休みの夕暮れ。
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