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ククルスの子供たち
『あの二人、絶対に生まれる家を間違えたよね』
そんな陰口が、当の私達の耳にあっさり届いてしまう。
私達の住む街は、それほど狭く、閉鎖的な田舎だった。
「気にしたら駄目だよ。行こ、佐奈子」
「分かってる」
詠雪が私を庇うように肩へ手を回し、早足になる。
歩幅が違い過ぎるので、私は少し小走りになりながら、それに合わせた。
――背中越しに聞こえていた、繁殖期の鳥達のようなノイズが遠ざかっていく。
「あれ、絶対に聞こえるように言ってるよね」
「それはどうかなあ。案外、ああいう人達は周りから自分がどんな風に見えているのか、気付かないものだよ。つまり、無神経なんだよ。だから、気にしたら駄目。ただの雑音なんだから」
「……詠雪は強いね」
「そんなことないよ。佐奈子が一緒じゃなかったら……ああもう、この話はヤメヤメ」
そう言いながら、ようやく早足を止める詠雪。
けれども、私の肩に回された手は、そのまま。
私の方こそ、彼女のこの温もりに何度助けられたことか。
私こと神田佐奈子と、詠雪こと西条詠雪は筋金入りの幼馴染だ。
生まれた日も一緒で、生まれた病院も一緒。
幼稚園から中学校までも一緒で、高校だって同じ進学先を選んだ。
まるで、双子の姉妹のようにずっと一緒にいる私達だけれども、その在り方は正反対だった。
長身で、スポーツ万能で、だけどちょっとだけ勉強が苦手な詠雪。
チビで運動オンチで、けれども勉強だけはちょっと得意な私。
詠雪はさっぱりした美人で、対する私は性格を映したような地味女。
こんな正反対な二人が、かけがえのない親友同士なのだから、不思議だ。
「詠雪は、これからバイトだよね?」
「うん。佐奈子は塾だっけ。お互い、お勤めゴクローサンだよ」
「違いないね」
なんだかオジサン臭い詠雪の言い回しに、思わず笑みがこぼれる。
詠雪の家は母子家庭で、生活に余裕がない。だから彼女は、部活もやらずに放課後はバイト三昧の日々だ。本当なら、大好きだった陸上を続けたかっただろうに。
一方の私は、唯一の取柄である学力を伸ばすべく、親から言われて塾通いの毎日。
お陰で、二人で遊ぶ暇もない。だからこうやって、学校から駅前までの僅かな下校時間を大事にしていた。
「ほんじゃ、また明日ね、佐奈子」
「うん。また明日、詠雪」
駅前に着くと、そこで二人はお別れ。
駅舎がボロすぎて全く絵にならない、毎日繰り返される青春の一ページ。
私は塾へ、詠雪はバイト先へ、それぞれに旅立つ。明日の朝までさようなら、と。
そんな退屈でかけがえのない毎日が、ずっと続くと思っていた。
その日の夜までは。
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