ククルスの子供たち

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「佐奈子。ちょっと、そこに座りなさい」  父が仏頂面で私を呼び止めた。夜遅くまで塾で勉強し、ヘロヘロになって帰宅した時のことだった。  私の晩御飯は用意されておらず、代わりに家族が勢ぞろいしていた。  共にスポーツトレーナーの両親。大学野球で活躍中の兄。高校陸上で有名人の姉。  いずれも、私とは似ても似つかない長身と見目麗しさを兼ね備えるスポーツマンだ。 「……はい」  お腹がぐうぐう鳴っていたけれども、私は逆らえない。  スポーツ一家の中にあって、運動オンチで勉強だけが取柄の私に、基本的人権はないのだ。 「佐奈子。今から大事な話をする。聞いてくれるかな?」 「……はい」  問いかけの形だったけれども、父のその言葉は命令以外の何ものでもない。  いつも、私に選択権など無いのだ。  「下手くそでみっともないから」と、大好きだった卓球をやめさせられた時も、こんなだった。 「実はな。しばらく前から西条さんと相談していたことがあったんだが、その問題に今日、答えが出たんだ」 「……詠雪のお母さんと?」 「ああ、そうだ。詠雪ちゃんと、お前のことで、だ」  ――何故だろうか、とても嫌な予感がした。  ずっとそんな気がしていて、けれども「馬鹿馬鹿しい」と思っていた何かが、脳の回路を焼くようにチリチリと蠢いている。 「回りくどいのは嫌いだ。だから、端的に言うぞ。お前と詠雪ちゃん、それに私達夫婦と西条さん、それぞれのDNAを鑑定に出した」 「えっ……」 「結果だけ伝える。お前は私達の娘ではない、西条さんの娘だ。そして詠雪ちゃんこそが、私達の娘だった」  ――どこかで、世界の歯車が外れる音がした。
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