ククルスの子供たち

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 それは、端的に言って悲劇以外の何ものでもなかった。  普通ならば、現代の病院で赤ん坊の取り違えが起こることはない。  けれども、私達が生まれた日は、台風とそれによる停電によって、街も病院も大混乱に陥っている最中だった。  そこで「何か」が起こって、あり得ないはずの取り違えが起きてしまったのだという。  「今更そんなこと言われても困る」というのが、素直な感想だ。  きっと、詠雪だってそうだろう。  私達はそれぞれの家で、この十数年間を娘として過ごしてきたのだ。今更「お前はうちの子じゃない」なんて言われたって、どう受け止めればいいのか分からない。  ――けれども、事態は私達の想いも意志も置いてけぼりにして、あっという間に進んでいった。  私は西条の家に、詠雪は神田の家に、それぞれ引き取られることになった。私達がどう思うかなんて関係ない。全ては大人達の都合だった。 「なんか、とんでもないことになっちゃったね」 「うん……」  昼休み。誰も近寄らない体育館裏のベンチで、私と詠雪は揃って項垂れていた。  思考が現実に全く追いつかない。 「高校出たら、『神田詠雪』を名乗れ、だって。はは、なんか佐奈子と結婚したみたい」 「私の方は『西条佐奈子』になっちゃうけどね」 「そうだね。結婚じゃなくて、名字の交換か」 「そもそも、女同士だし」 「お、佐奈子って同性婚反対派だっけ?」 「……今はそういう話はいいから」  せっかく、詠雪が気を利かせて軽口をたたいてくれたというのに、私は彼女の気遣いに感謝する余裕さえなくなっていた。  結局、私達はとりとめもない会話を交わすのが精いっぱいで。  そのまま、お互いの家に移り住むことになった。
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