ククルスの子供たち

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 西条のお母さんは優しかった。  彼女は色々あって学者の道を諦めた人らしい。その夢を娘に託そうとしたけれども、詠雪は勉学よりも筋トレが大好きな子だった。  だからなのか、勉強が得意な私が本当の娘だと知って、大層嬉しかったのだとか。  でも――。 『佐奈子ちゃんは凄いわね。あの子とは大違い!』 『嬉しいわ、話のレベルが合う娘ができて』 『あなたの為なら、お母さん、頑張れるわ!』  彼女の言葉の一つ一つが、私の心臓に抜けない棘を打ち込んでいく。  詠雪はとても親孝行な子だ。高校に入ってからは、陸上を諦めてバイト三昧の日々。  バイト代は必需品に使う以外は、全部家計に回していた。  全ては「お母さん」に、少しでも楽をさせたいという想いから。  それなのに――。 『あの子は勉強もやらないで、バイト三昧! 私の言うことなんて聞いてもくれなかったの』 『佐奈子ちゃんは本当にいい子ね! やっぱり、血の繋がりが何よりなのね』  分かっている。分かってはいるんだ。  西条のお母さんだって、必死に現実を受け止めようとしているんだって。  だから、誰かを悪く言うことで、自分を保っているんだって。  でも……でも! 「……言わないで」 「えっ? なあに、佐奈子ちゃん」 「私の親友を悪く言わないで!」  私の忍耐は結局、一ヶ月も持たなかった。  呆気にとられる西条のお母さんを顧みず、私は最低限の荷物だけを持って家を飛び出した――。
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