そうだ、ディズニーへ行こう

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「そうだ、ディズニーへ行こう!」  僕の将来の奥さんになる予定の人が、さも、今思いついたかのように声をあげた。  え?新婚旅行もディズニーなの?  正直、僕は驚いた。  なぜなら、少し前に二人でディズニーランドに行ってきたばかりだからだ。というか、付き合い始めてから、年に一度は行っている。  そう、彼女は部類のディズニー好きだ。  しかし、 「新婚旅行はイタリアに行きたい」  普段は、彼女の決定に余り口を挟まないのだが、この時ばかりは言わせてもらった。 「せっかくの新婚旅行だよ。海外に行こうよ」  僕は、これ迄一度も海外旅行に行ったことが無かった。だから、新婚旅行は海外に行きたいと思っていた。さらに言うと、僕はイタリアに憧れを抱いていた。塩野七生さんの著書「海の都の物語」を読んで、特にヴェネツィアに是非とも行ってみたかったのだ。 「海外だよ」  ん?どういう事?  彼女の一言に、僕の頭の中を?が飛び交う。それを察して、 「アメリカのオーランドに有るディズニーワールド」  と彼女は付け足した。  な、なにー!海外にもディズニーはあるのか!  その当時、僕は海外にもディズニーがあることを知らなかったのだ。  衝撃が僕の中を稲妻のように走り抜けた。それと同時に、海外でない事を理由にディズニーを却下する僕のプランが消滅した。  それでも僕が渋い顔をしていると、そこから、彼女の怒涛のプレゼンが始まった。  オーランドのディズニーは三つのパークが併設されていて日本とは規模が違うこと、三つのパークにはそれぞれコンセプトが有って、その世界観が見事なこと、さらに、アウトレットモールも近くに有ってショッピングも楽しめることなど。  ニ十年以上経った今でも、僕が諳んじて説明できるのだから、その時の彼女のプレゼンがいかに優秀であったかが伺えるであろう。  さらに、旅行会社の方に移動時間、旅行代金を調べて貰い比較した結果、全てにおいてディズニープランの方が優っている事が数字上でも明らかになった。 「それに、イタリアは歳をとってからでも行けるけど、ディズニーは若い時しか行けないよ」  彼女のその言葉がダメ押しだった。  この「若い時しか行けない」という期間限定のプレミア感は抗い難い魅力を放った。  若い時しか行けないのか〜、そうかぁ、じゃあ、行っとくしかないよな!みたいな。  内の両親も定年後にヨーロッパ旅行をしていることを考えると、それが如何にも妥当な判断であるように感じた。  斯くして、イタリアプランは老後に延期?され、ディズニープランが採用されることになった。  あれから二十年以上の月日が流れた。  僕達二人は、結構な年齢になった。  定年退職するには、まだまだだが、三人の子ども達も手が掛からなくなり、そろそろイタリアプランを実行に移してもよいのではないだろうか? 「今年の夏の旅行、どうする?」  少し期待しながら尋ねると、 「そうだ、ディズニーへ行こう!」  ……  まだ、早かったようだ。  それに今年は四十周年だから、是非とも行かなければいけないそうだ。  しかし、ディズニーは若い時しか行けない、と言っていたが、僕達はまだ若いのだろうか?  ひょっとして、ディズニーは歳をとってからでも行けるのではないか?  最近の僕は、その事に気付き始めている。  おしまい  
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