草刈り場の木陰

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草刈り場の木陰

 「「お姉ちゃん」」  と二人の少女の声が重なる。彼女らは双子であることは,知っている。なぜなら,俺は二人の父親だからだ。  しかし,どちらがどちらかとか,名前は何だとか,詳細はわからない。ただ,自分の娘である,という親としての直感が,おそらく,大きな麦わら帽子を被った方が姉だろうと判断した。 「えー,おねえちゃんがおねえちゃんでしょ?」  と,何も被ってない少女が, 「ううん,おねえちゃんがおねえちゃんだよ?」  と,麦わら帽子の少女が言う。  死んだ時ぶりに目覚めたと思ったら,目の前に娘たちがいて,しかもかなり似ていて,と言うことで,かなり頭が混乱している。どちらがお姉ちゃんかを間違えたのは,おそらくあまりの酷似に母すらもよく間違えるためだろう。  二人が話しているところは,大人たちの醜い争いの中で生きる強かな強さを感じ,まさに草刈り場の木陰だなあ,としみじみ思っていると,急に場面が変わった。  何も被っていない方,つまりは妹が,ノートに書き連ねている。宿題だろうか,と思い,覗いてみる。 『姉と一緒にされたくない』 『姉と似ている自分が嫌い』 『私は唯一無二でありたい』  そこには,呪いの言葉が綴られていた。また,どこかに場面が変わる。映る景色のほとんどが,花だった。しかし,注目すべきはそこではない。姉が,妹に襲われている。姉は倒れていて,妹の手にはフルーツナイフが握られている。  あぶない!そう叫んだはずだが,どこにも響いていない。ああそうか,と俺は気がついたをあの二人が草刈り場の木陰ではなく,まさに草刈り場そのものだったのだ。
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